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第220話
それから俺がいかに浮かれているかという話を延々とすると、アゼルは食事も喉を通らないと言わんばかりに突っ伏してプルプルしてしまった。
俺は対照的にソテーが進んだぞ。
本当は俺も惚気けたいんだ。
知らず知らず語られているとアゼルが恥ずかしいから、我慢している。
だから本人に語ったのだが……照れて恥ずかしがっているのを見るのは、なんというか、……楽しいな。
俺はサディストだったのかもしれない。
アゼルは俺をマゾヒストと言うので、真相は闇の中だ。
「うぅぅくそ、今日はなんて積極的なんだくそう……ッ、シャルお前酔ってねぇよな……?」
「勿論シラフだ。むしろこっちに来てから、全くお酒を飲んでいないな……俺は白ワインが好きだった」
チリンチリン
「一番いい白ワインを持ってこい」
「かしこまりましたっ」
「? ん? んん……?」
アゼルが呼び鈴をチリンチリン鳴らして手を上げ、屋上の出入り口に常に待機している店員さんへ、流れるように注文をした。
俺は白ワインが好きだと言っただけだ。
なのに二人とも、まるで訓練された兵士のようなスムーズさだったぞ。
俺は一瞬何が起こったかわからなかった。
しかもものの数十秒で、ボトルとグラスを持って帰って来る店員さん。
店内の人達も臨戦態勢だったのか。
「フッ、いい店だ。」
「ありがたき幸せです……!」
うん。完成された主従関係である。
街での自然な無人サークルといい、ペットショップでの背景に徹する様といい、魔王慣れしすぎだ。
城下街の魔族はなぜみんな、魔王の扱い方を心得ているのだろうか。
店を出している責任者は営業申請のため、城へ謁見に来ていると思うが……教育が行き届いていすぎるぞ。
あっという間にグラスに注がれ用意された久方ぶりの白ワインを手に取りながら、俺は恐れ慄くしかなかった。
「ふふん、さぁ飲め! 存分にな。他のが欲しけりゃいくらでも頼むぜ」
「んん……ありがとう。これだけで大丈夫だ」
ずっと饗され褒められ愛を囁かれ続けていたアゼルは、貢ぎたい癖の我慢が限界だったのだろう。
やっと俺のターンだと言わんばかりに、ドヤ顔でワインを勧めてくる。ご機嫌だな。
俺はその様子にちょっと和んで、お礼を言ってからアゼルとグラスをチン、と合わせ、ありがたく一口煽る。
「ン……美味いな」
ごくりと飲み込んだワインは、文句無しに美味しい上等な代物だった。
鼻から抜ける果実の芳醇な香りと舌に残る味わいが爽やかで、酸味が強いながらフルーティ。
ワインにしては度数が高いが、飲みやすくてとても美味しい。
俺は頬を緩めて二口目を味わいつつ、同じように乾杯とともにワインを飲んだアゼルへ、語らおうと視線をやった。
──ん、だが。
「…………うぅ……? うぅん……?」
「ど、どうした?」
アゼルが眉間にシワを寄せて険しい表情になり、しっくり来ない様子で一気にグラスを空にしている。
口に合わなかったのかと思ったが、そのままグラスに新しくワインを注ぐ。美味しかったのか?
そしてまたそれを納得いかない様子で飲み干すアゼルは、よく見ると早くもほんのり顔が赤い。
ンン……まさかとは思うが、これはまさかなのだろうか。
いやしかし二杯で、あぁ三杯目に行っているぞだめだこれは。これはやはり、だめだ。
「アゼル、アゼル。今までお酒を飲んだことがあるか?」
「うう、んー……? んー……ねぇけど、これ、うまい……かもしんねー……な?」
よし。完全に酔っ払っているな。
間延びした口調で赤らんだ頬をへらりと緩ませて、とんでもなくデレッと笑ったアゼルに、俺はどうしたものかと困ってしまった。
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