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第221話
今までお酒を飲む機会がなかったのか、それとも飲まずとも香るキリッとする風味から自分で敬遠していたのか。
真相はわからないが、つまり百年超えのはじめましてだ。いい気分になる、という酔いには耐性がなかったのだろう。
普通の魔族ならちっともおかしくないが、てっきりいつもの魔王チートで全く酔わないだろう、なんて思っていたぞ。
ううん、どうしたものか。
俺はとりあえずお冷を差し出して、ボトルを奪い返そうとする。
だがアゼルはヒョイ、と俺の手を避けてボトルから直接ゴクゴクと煽り始めた。
さっきよりにっこにこしている。これは重症だ。
「コラ、お前は酔っ払っているから、ワインはやめて水を飲むんだ。二日酔いになると明日が辛いぞ?」
「シャルの、ばかー……嫌だ、おまえの好きなものは、おれもいっしょにのむんだー……」
「あぁっ、溢れる溢れるっ」
話しながら傾けたボトルからビシャっとワインが溢れ、アゼルの胸元をしとどに濡らした。
俺は慌てて立ち上がり、ハンカチを取り出す。
言わんこっちゃないだ。
俺は焦りつつ彼の襟元をはだけさせ、トントンと湿った胸元を拭きつつ、今日はどうやって城まで帰ろうか考えた。
来た時はアゼルの第三形態でひとっ飛びなのだが、飲酒運転になるかもしれない。
とすれば俺が抱えて帰るしかないな。
そんなことを思案している俺をワインを飲みつつ機嫌よくにこにこ眺めていたアゼルは、突然むぎゅっと俺の頬を両手で掴んで自分の方を向かせた。
「むぐぅ、むぁんひゃ ?」
「シャルー?」
「ふむぅ?」
「んふふ、呼んだだけだぜ〜?」
「ひょうふぁ 」
くそう、かわいいなこの酔っぱらい。
ハンカチをしまいながら、俺は少しドキドキと胸を高鳴らせてしてしまった。
アゼルはそのまま俺の頬や髪をわしわしとなでて、膝に乗れと催促してくる。
それはいいがもうワインはやめておけ。
ボトルを置いて欲しい。
「こーら、酔っぱらいの膝には乗りません。大人しく水を飲むんだ」
「うっ! うぁぁ、なんでそんなひどいこと言うんだ……、シャルのばかー……シャルなんかきらいだー……」
「!? き、嫌いと、言うのが、酷いことだっうう……、馬鹿アゼル……酔っぱらいだから、仕方ないが……俺も飲まずにはいられないぞ……」
「そうかぁ〜じゃあのませてやる、んむ」
「ンン」
むちゅ、と合わせられた唇からワインがトロリと流れ込んできて口移しで飲まされた。
このくらいじゃあ嫌いと言ったのをナシにはできないぞ。酔っぱらいの戯言じゃなければ拗ねるからな。
合わせた唇が離れて、深く呼吸する。
仕方ないやつだな……。
トスン
「ん、まぁ、今日は遠慮なしって言ったからな」
「! くぅん、んへへ、シャルぅ〜きらいはうそだ、いっぱい好きだ〜……んんんーかわいい、かわいい、だいすき……おれのだ、かわいいシャル、すき、すきー……」
「…………かわいくはないと思う……」
絆されてしまった俺が椅子ごとアゼルの体をまたぎ、向かい合わせに乗る。
するとアゼルは途端にへらりと破顔して、子犬のような声を出し、俺の腰を抱きしめながらすりすりと甘えてきた。
甘えられる俺の頬が赤いのはワインのせいであって、なにもデレデレなアゼルの素直な言葉にやられたわけでは、ないのである。
……ないのである。
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