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第225話

 どうにも聞いているのに反応しないで一心不乱に書類を片付けるアゼルに、ユリスとリューオはすごすごと紅茶を用意している俺の元へ帰ってきた。 「だぁめだな、ありゃ普段ツンデレ拗らせてるだけに相当効いてやがる」 「気持ちはよーくわかるよ。落ち着くまでそっとしておくしかないけれど、あの様子じゃ一週間はあのままかもしんないね……」 「むー、むー……」 「お、お茶ありがとな。まぁそう落ち込むなよ。昨日のお礼にもちっとなんか考えてやるぜェ」 「そうだね。おかわいそうに魔王様……シャルなんかに羞恥プレイなんてされて……! 魔王様のためだもの! 僕がどうにか心落ち着かせて差し上げるんだからねっ! ……後、ちょっとだけシャルのためにね!」 「むむー」  グッと親指を立てるユリスに俺はむーむーと言いながら拍手を送って感謝した。  リューオは俺がいれたお茶を飲んで、ついでにお茶請けの空マグロに恐る恐る手を出している。お、美味かったみたいだな。  空マグロ、本当にチョコの味なのだ。  美味しかった。捌くのが大変だったが、そこは愛剣の力でどうにかしたぞ。 「ねぇねぇ、このマグロとお茶持って行くのはどう? お菓子は受け取ったんだし、シャルが行けば直接受け取りに来てくれるんじゃない? 餌付け作戦だよ!」 「むー? むむー(そうか? わかった)」 「魔王野良犬かよ。後シャルはちょっと何言ってるかわかんねェ」 「むむむーむー(アゼルが犬なら)むーむーむむむむーむー(野良犬じゃなくて飼い犬だと思うぞ)?」  俺の口を縛ったのはお前達なんだが。  むーむー言っても言葉が通じないようでリューオに聞かなかったことにされた。仕方ないな。  とりあえず俺は立ち上がって、小さな盆に紅茶の入ったカップと空マグロの切り身が乗った小皿を乗せて、二人に向かってうんと頷いた。  やってやるぜ、という意思表示だ。  二人もそろって親指を立てた。 「むむむ(アゼル)」 「なっ、なんだよ、シャル。そっからこっちは俺の陣地だぜ……! 結界に入るなよ……ッ?」  のしのしと歩いて結界に近づくと、アゼルは俺には返事を返したが顔をそらし、やっぱり羽織のように上掛けをかぶってカァッと赤くなっている。  俺を見るとやはり思い出すようだ。  だがそこでめげずに真剣な顔をして、スッとお盆を差し出した。 「むむむーむーむー(お茶と空マグロだぞ)」 「そ、空マグロ? ……あぁ、お前のテンションが上がる魚か? 屋台で買った、うおぉぉっ屋台、街、昨日ッ!」 「むっ(だっ)むむむっ(大丈夫だっ)むーむーむむむー(一緒に食べないか)?」 「うぐぐぐ……! 一緒は無理だぜ、置いとけ、俺に昨日のことは夢オチなんだと自己暗示がかかるまで直視できねぇ……っ! うぁぁぁ……!」  そーっと慎重に声をかけたのに、アゼルはボフッと上掛けを被ってバンバンとカーペットを叩き悶絶してしまった。  空マグロ作戦は失敗だ。  俺はお盆を近くに置いていそいそと見守ってくれていた二人の元へ戻る。 「むむっむー(駄目だった)」 「失敗かぁ〜っ手強いね……!」 「なんで魔王はお前の言ってることがわかるんだよオイ」 「? 愛でしょ?」 「むむ(愛だな)」 「いや愛って翻訳コ○ニャクじゃねぇからッ!」  リューオがガオウッ! とそう吠えたが、秘密道具がわからないユリスは首を傾げ、俺はなぜ怒られたのかわからず首を傾げた。話ができるのはいいことだぞ。

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