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第226話

 空マグロ作戦ではアゼルが結界から出てこないので、俺達はさらに頭を悩ませることになった。  ちらりと横目で見るとアゼルはお盆を回収してマグロを一口、そして残りを召喚魔法域にこっそり仕舞い込んでいた。  あれもコレクションするのだろうか。 「ぅよし、今度は俺から案があるぜ」 「むむ?」 「とりあえずそのスカーフ解いてやるから絶対可愛いって言うなよ? 後魔王を口説くのもやめろよ?」 「んむ、ぷはっ」  神妙な顔をして案があると言ったリューオが、俺の口枷を解いてくれた。  そしてこの作戦は現代人だった俺とリューオしかできない技らしく、ユリスは見学となり二人でひそひそこそこそと話をすすめる。  リューオと頭を合わせて話していると、ユリスからの視線が痛いな。  やましいことはなにもないぞ。  今だけ大好きなリューオへの接近を許してくれ。  そして色々と教えてもらった俺は、自信なく困り顔になってしまった。 「俺は現代の時、あまり時間がなくてその作品は見てないのだが……」 「あぁん? 昔の話だが流行ってたし、歌ぐらい知ってるだろッ?」 「ちょっと歌詞を教えてほしい」  当時の流行りに乗ってないことを信じられないと言いたげな目で見られ、肩をすくめる。  キャンパスライフを満喫していた派手めなリューオと、社畜ライフを満喫していた俺では、ジェネレーションなギャップがあるな。  兎にも角にもまた頭を突き合わせて小さな紙を二人で覗き込みながら、練習することにした。  勿論ユリスの視線が痛かったぞ。  ──十分後。  サッ、と結界に近付いた俺は、コンッココンッコンッと軽快な音を立てて結界をノックする。 「ねぇアゼル」 「なんだ」 「雪だるま作ろう〜」 「!?」  結界の前で歌い出した俺に、作戦会議中からチラチラこっちを見ていたアゼルは、驚愕しつつ窓の外を確認する。  勿論雪は降っていない。  まだ季節で言うと秋ぐらいだ。  そもそも魔界寒暖差が激しくないので、北の雪エリアに行かなければあまり雪は積もらない。  だが俺はそのままキリッと真顔で、拙いリサイタルを進め続ける。 「ドアを開けて〜」  パッ 「…………」 「一緒に遊ぼう、どうして? でてこないの〜?」  サッ 「…………」 「前は仲良く、してたのに〜、なぜ会えないの〜?」  ピョンッ、サッ 「…………」 「雪だるま作ろう〜大きな雪だるま〜」  ピタッ 「…………」  恥を捨てた全力のパフォーマンス。  こんな軽快にステップを踏みながら歌ったことはないぞ。  真剣そのものの表情でくるくる歌いだした俺を、全く動かずに見つめているアゼル。  アゼルを見つめて次のセリフを待っている俺は、言葉が返ってこなくてキョトンとした。  話が違うぞ、リューオ。 「アゼルの番だ。セリフを言ってくれないと終われない」 「!? お、おれか……っ?」  目を白黒させて混乱しているアゼルが上掛けをバサッと落として、つい、といった様子で立ち上がった。  そうだぞ。  これはリューオ命名『シャルとツン期の魔王』作戦なんだからな。

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