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第227話

 俺は立ち上がったアゼルにいいか、と前振りをして言い聞かせるように指を立てて振る。 「あっち行ってよシャルって言うんだ」 「ハッ!?」  アゼルはクワッと目を見開いてわなわなと震えだした。  だがこれを言ってもらえないと話が進まないからな。  リューオはコレがうまくいけばアゼルが照れくさいのも忘れて出てくると言っていた。  なのでやりきらねばならない。  俺は「そういう歌なんだ、言ってくれるだけでいいぞ」とアゼルに言って、さぁとセリフ待ちをする。 「っ? あ、あ、あっちいってよシャル……?」  震えながらぽかんとしているアゼルは、とりあえず俺の頼みを聞こうと口にしてくれた。  それに一つ頷く。 「……わかったよー……」 「!?」  俺はセリフ通りにしょんぼりと肩を落として、くるりと振り向いた。  そしてアゼルに背を向けて、トボトボとリューオ達の元へ向かって歩く。 「ぅ、うう……!? え、ぅ」  後ろで呻く声が聞こえるが、振り向いては行けない。  台本通りに辛気臭く歩きながら、リューオを見ると親指を立てていた。これであってるんだな?  んん……しかしこれじゃあアゼルにあっちいってと言われただけで、俺は歌を歌った意味がない気がする。  あっちいってか、なんだか悲しいな。  セリフなんだが、ちょっと寂しいぞ。  いつもならアゼルは俺を抱きしめてくれるのに、俺が背を向けていてはよろしくない。  なんて寂しいセリフだ。  俺はお芝居は向いてないようだな。 「……な、なんで離れるんだ馬鹿野郎、どっか行くなっ!」 「うあ、」  そうしてしょげていると突然後ろに抱き寄せられて、俺は温かいものに包まれる。  リューオがすごいドヤ顔だ。 「俺から離れることをなんでわかるんだアホ、生涯の約束を忘れたのかアホ、ふんっ」 「ん……あぁいうセリフなんだアゼル。お前が隅っこにいて寂しかった、お茶は一緒が美味しい。昨日買ったティーセットを使おうじゃないか。アレを俺と使えばデートなんだろう?」 「うぐぐぐ……!」  たてこもっていたのが芝居とはいえ引いてみることになると、あっさりと出てきたアゼル。  アゼルはバツが悪そうにしながら俺を背中から抱きしめて、二人一緒にユリスとリューオの元へ歩く。  昨日、俺の寂しいが欲しいと言っていたのを素直に口にしたので、余計に真っ赤になっているだろう。  耳に触れるアゼルの頬が熱いからだ。  二人の元へ行くと、リューオはふふんと機嫌よく腕を組んだ。  アゼルは俺を離さないのでそのままアゼルの膝の上に座り、リューオ達の向かい側のソファーへ着席。 「ほれみろ言ったとおりだろ? 不思議な踊りでメンタルポイント、MPを削りつつの押してだめなら引いてみろだ。魔王一本釣りだぜ」 「ありがとう二人とも。もうお酒は禁止だ。それに可愛がりすぎるのも良くないんだな、俺は我慢を覚えるぞ」 「! 悪いとは言ってねぇだろっ、その、なんだ、シラフの時は許す! 俺を存分に辱めやがれっ!」 「よしよし、わかったからその言い方はもう少しまろやかにしてほしい」  辱めたいわけではないのだ。  そう思ってアゼルの頭をよしよしとなでていると、リューオが「機嫌取りは大変だなァ?」とニヤニヤする。  なので俺はちょっと困り顔になって、リューオの隣に目をやった。 「すまん、俺のせいなんだが……作戦会議で俺と二人でくっつきすぎて、お前のお姫様がずっとふくれっ面なのに、いい加減気付いてあげてくれないか?」 「!? ゆ、ユリスッ! 俺が一番くっつきたいのはお前だッ!」  ツンデレな愛する人のご機嫌取りに大変なのは、異世界人コンビの宿命なのかもしれない。  魔界のツンデレ代表の頭をなでつつ、俺は一人笑みを漏らした。  八皿目 完食

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