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第241話

 ♢  夕食の時間は、俺は風呂に入ってくるから遠慮せず食べてくれと声をかけ、しばらく長めに湯に入った。  そうするとあがったころには、アゼルはちゃんと全部食事を終えていた。  やはりとても、お腹が減っていたのだ。  そうして今度はアゼルがシャワーを浴びている間に、ユリスから届いた手紙を読む。  夕飯はお菓子のつまみ食いが多かったから、俺は今日はいらないと言ったのだ。  ユリスの手紙には、聖導具の解析を研究所のごく一部だけで秘密裏に行っていること、仕事は、ライゼンさんが早急に対応して明日からしばらくの来客や会議も全て強引に収めたこと等が書いてあった。  アゼルはしばらく天族からの暗殺等を警戒して、なるべくは自室にいてほしいとある。  魔王は一番強いのだが、陸軍と空軍は警戒態勢になっているそうだ。  それから、記憶がないために、人間で勇者のリューオは様子を見に行くのは自重しているとも書いてあった。  リューオはアゼルと俺を心配して落ち着かない様子なので、ユリスも一緒にいることにしたらしい。  手紙の最後の方に、俺のことが書いてあった。 〝僕らは会いに行けないけれど、お前一人ならいつでも来ていいんだからね。遠慮したら殺すよ〟 〝お前は泣くと気持ち悪いから、笑ってるほうがいい〟  小さくて丸いユリスの字と、大胆で不器用なリューオの字。  俺の心は、その文字を追うとポカポカと暖かくなった。二人とも、一度は対立した相手なのに、優しい友人達。  大丈夫だ。  お前たちがいると思うだけで、俺はまだまだ大丈夫。  しばし手紙を胸に抱いて、自分のエネルギーをチャージする。  みんな、アゼルが大好きで、みんな、俺も気遣ってくれる。こんなに支えられたら、折れるわけない。  俺はじっと心遣いを感じてから、手紙をきれいに便箋に戻して俺の小さな宝箱にしまった。  一度はあの絵画との事件で倒壊した時に瓦礫に埋もれてしまったが、幸い中身は無事だったので新しい宝箱を用意してそのまま大事にしている。  アゼルのようにどんな些細なことでも集めるわけではないが、プレゼントとは別に俺が宝物と感じたものはここに入れているのだ。  この中身を、以前のアゼルには秘密は嫌だと強請られて、一つ一つ見せて語ったことがある。  今のアゼルはそんなことを覚えていないだろうが……いいんだ。ここにはまた、今のアゼルとの宝物も増やしていけばいい。  ──ガチャ。  洗面所へ続く扉が開いて、夜着に身を包んだアゼルがやってきた。  俺はぱっと箱から離れてにこにこと笑顔を浮かべ、親しみを持って近づく。 「魔王様、湯加減はどうだった? 疲れていたろうから、とても気持ちがよかっただろう?」 「あぁ? ……普通だ」 「あはは、普通が一番だ」  相変わらずの仏頂面で決して触れ合うことはない距離を取る彼は、笑う俺に眉をしかめてソファーにドサッと腰を下ろした。  俺はそれを追いかけて向かい側に座る。  アゼルはやはりビクッと震えたが、何も言わなかった。うん、少し近づけたかな。

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