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第278話(sideアゼル)
俺は、アイツを探して焦りのままに、足早に食堂を目指していた。
アイツはお菓子屋さんをしていると言っていたからだ。
この一週間聞いた長い話では、食堂にお菓子を卸しているらしい。
部屋に戻りたくなくても、仕事なら待っていればくるだろう。
遅くなるかもしれないが、執務室では手がかりが見つけられなかったから致し方ない。
そう思っていた。
早くしなければと急いていても、それしかできない。
だが、突然キィキィと甲高い鳴き声が中庭から響いて、俺は方向を変えそっちへ向かった。
中庭には城下街にある店舗ほどの大きさの建物があった。
それに魔王専属従魔であるカプバット達が集まって、大きな単眼に涙をためて入り口の辺りで取り乱している。
俺はどうしていいかわからないが、部下が泣いているのは無視できない。
すぐに駆け寄って声をかけた。
「オイ、お前ら……」
「! マオウサマ! タイヘン、デス! シャル、イナイ、オカシ、ナイ、ヘン! ヘン!」
人一倍ボロボロと涙を零しているカプバット──たしかアイツがマルオと呼んでいた部屋付きの従魔が、いの一番に訴える。
──……イナイ、いない?
ドク、と大きく胸が鼓動した。
すぐには言葉が吐けなくて黙る俺に、マルオは更に状況を話す。
「シャル、キョウヘヤイナカッタ! ダカラオカシ、ツクッテル、オモッタ。マルオタチ、イツモオテツダイスル、ショクドウ、オトドケ! デモ、デモ、オカシナイ……シャル、イナイ……イナイ……キィィ……!」
「キィ、キィ!」「イナイ、シャルイナイ」「マオウサマ! タスケテクダサイ!」「クダサイ!」「キィィ……!」
マルオの言葉に続いて、同じく手伝いをしていて交流のあるらしいカプバット達が、パタパタと俺の周りを飛び交って訴えた。
呆然とする頭の中で、どうにか話を組み立てる。
部屋にいなかったのは俺も知っている。
だが前の自室へ行くと言っていたが、そこにもいなかったのだろうか。
そして毎朝手伝いにくると知っているのに、厨房にもいない。仕事もしていない。
しかし、アイツはそんな不実な男ではない筈だ。
だって俺が記憶喪失になっても、付きっきりでいれば治るものでもないと、笑って毎日働いていた。
「…………」
黙って、扉の中を覗き込む。
どこもおかしなことはない。荒らされた様子も壊れたところもない。
主のいないもぬけの殻で、静まり返っている。
あぁ、なるほど。
そうか。
「……アイツも、手遅れ……か」
夢の中で、俺が言っていたとおりだ。
すぐに追いかけて、謝らなければならなかったんだ。
間違って間違って、どうして俺が正解するまで待っていてくれると思ったんだ。
厨房を見ないよう振り返って、晴れた空の下へサクサクと地面を鳴らし歩く。
「マ、マオウサマ……シャル……イタ……?」
「もういない。……俺がいなくていいと言ったから、出ていったんだろ。クク、せいせいする。貧弱な人間なんて、魔界にいたって邪魔なだけ。死ぬ前に消えたのは、懸命な判断だ」
「!」
どうして──明日があるなんて、思ったんだろう。
「……記憶も、アイツも、ないほうが幸せだ」
俺もアイツも、嘘吐きなのに。
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