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閑話 勝者達の祝杯

 天界から戻って、一週間が経った。  アゼル達が留守の間に案の定というかなんと言うか、天使がいくらか襲いかかってきていたらしい。  天界にいる時、確かにそんな話を聞いたのだ。  だがそこは万全の体制で挑んできた魔界軍。  城は陸軍が守っていたので、軍魔も民も全員無事である。  その中には陸軍で働くリューオももちろんいて、なんならを先陣を切っていたらしい。  リューオは俺と同じ人間で、しかも勇者なんだが……チート戦闘力である。  更に眉唾情報。  なんと聖剣使いのリューオは聖剣で聖法を受け止め、ついでに吸収できることが判明したそうだ。  なのでリューオを盾にして敵に特攻し、怯んだ隙に軍魔が囲んでリンチするという作戦で死傷者ゼロ。  勇者と書いて最強の盾ができてしまった。  魔界軍はどんどん磐石になるな。  それから魔導研究所が聖法での状態異常検査機の作成に成功したので、操られていた内通者を軒並みあぶりだすことができたとか。  これがとても大きい。  アゼルは王様なので、操られているというだけでは処断できない。  守るのも王様の役目だからだ。  かと言って内情を垂れ流すのは止めなければならないし、虱潰しに全員殺すこともよろしくない。  そんな八方塞がりの悩ましい現状を打破する素敵なアイテム、【聖法痕検査装置】。  製作者はユリスを含む魔道具研究所の面々だ。  特別手当が出たそうだぞ。  それほど画期的なアイテムである。  今ならリシャールに操られても、すぐにそうとわかるだろう。  研究所所員達も、軍魔達も、アゼルが記憶喪失になってからの数日間ずっと働いていた。  空軍なんて魔力供給なしのまま魔界から遠く離れた上空でドンパチなので、重軽傷者多数だったんだ。  ライゼンさんが同行してなければ、治癒用魔力が全く足りないレベルだった。  軍魔は強い魔物の魔族なので、防御無視の作戦名ガンガン行こうぜである。  信号機三人組は揃って目を回していたぞ?  今度お礼のお菓子パックを渡す予定だ。  ──とまぁ、そんなわけで。  各々が自分なりに頑張った魔王城の魔族達は、戦闘の後片付けをしてから、順に定休日とは別の休日をもらうことになった。  交代制で休みつつ、溜まった仕事も処理してメキメキと復興していく魔王城。  魔族は強か。  終わりよければ全てよし。  後始末が順調すぎて、枯れてしまった俺の贈り物である花を抱えて泣きだしてしまったアゼルが、庭に上等な墓を作る暇があった程だ。  ポロポロと涙を零してへの字口のまませっせと墓を作るアゼルの悲しげな背中といったらない。  戒めも込めているそうだが、アゼルがここ数日ずっと思い出し泣きしすぎて、枯れてしまいそうだった。  俺はそれのほうが悲しくて、同じく胸が痛かったな。  だから全身全霊で抱きしめて甘やかして、口に出せないあれこれもして、どうにか元気づけたのだ。  おかげで一週間が経った今は、ようやく普段通りのツンツンデレデレなアゼルになった。  うん。やっぱりアゼルはそうじゃないとな。  ちなみに軍魔でも魔族でもない俺が、城に帰ってきてなにをしていたかというと──寝込んでいた。  いやはや……本当に不甲斐ない。  極度の緊張状態だったのと、貧血と疲労。  そしてそれ以前の一週間ほとんどちゃんと寝てなかったことと、食事も疎かだったこと。  それらがアゼルと無事魔王城に帰って来た安心感でどっと押し寄せてきたようで、朝起きようとしてふらつき、情けないことだがあっさりダウンしたと言う訳だ。  とはいえ一日しっかりと寝ると、食事睡眠を充実させれば全く問題ないレベルである。  なので仕事をしたかったのだが──そうも行かない事情があった。  まぁ、その……心配して見に来てくれたいつもの皆に、大丈夫だと言うとな。  なんだか皆、無言で過保護モードに入ってしまってな。断固阻止された、と言うか。  本当に俺が自分に使う大丈夫を一切信じてくれなかった。  最早聞いてすらいなかった。  全員がだぞ?  誰かが働いている時にじっとしているのが耐え難い現代社会人だった俺に、全員なにも仕事をくれなかったんだ。  そうなると流石にそこまで信用がないのかと、しょぼくれてしまった。  けれど俺がしょげるとソワソワするアゼルだって、俺の大丈夫はやっぱり信用してくれなかった。  困ったものだ。  早くか弱いという勘違いは正してほしい。  閑話休題。  さて。  長くなったがそういう訳で、不甲斐ない俺はまたも騒動の後始末にも参加できず、ベッドの住人となっていたのである。

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