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第313話

 言っておくが、揃ってしまったガドとアゼルと言う過保護二大巨塔を侮ってはいけないぞ。  自分が幼児だと錯覚するくらいひたすら世話を焼かれると言う、過剰看護生活な一週間だったからな。  それだけ心配させてしまったということだから、世話を焼かれると申し訳なく思う。  これをいうと二人とも口を揃えて「お前が頼り下手だから勝手に世話するしかねぇんだよ」というので、俺は黙るしかないのだが。  うぅん。  助けられるのを待つ選択肢が全くなく、少々過激な脱獄方法を自力で決行したことから、相当偏見を持たれているみたいだぞ。  そもそもアゼルだって記憶をなくしている間、俺の厨房の場所を聞けばいいのに誰にも聞けず彷徨っていたらしいじゃないか。  ガドに叱り飛ばされてボロボロにならないと、泣くことすら出来なかったとか。  アゼルは弱音を吐くのがヘタクソだな。  困ったアゼルだ。俺のかわいい旦那さんである。  これを言うとガドには「この欠陥辞書夫夫共め」と笑われた。  似た者同士なんだ。仕方がない。  まぁ、なにはともあれ、手厚い看護を受けた俺はすっかり体調も元通り。  胸を張って元気だと言える状態になった。 「ンー……シャぁルゥ、もっと」 「このへんか?」 「ンンン~」  ソファーに座る俺の膝に頭を置いて擦り寄ってくるガドのおねだり通り、角の付け根あたりをこしょぐってやる。  すると彼はたまらないように声を上げて、長い尻尾を揺らめかせて鼻歌を歌った。  大きな体を丸めてソファーに収まる姿は、なんだか可愛らしい。  微笑ましくてクスリと笑う。  現在なにをしているのかというと、なんのことはない。  すっかり元気になった俺は自室にて、ゴキゲンなガドにいたれりつくせりなおもてなしをしているのだ。  ことの発端はいつかの約束。  順番にとっていった休日が今日はガドの番で、ならばとあの日の約束通り、俺とアゼルとガドの三人でティータイムを楽しむことにしたわけである。  三人のお茶会は、ガドの戦利品だからな。  目の前のローテーブルに乗る漆器のカップには、ガドが買ってきた紅茶専門店のいい茶葉を使った紅茶が用意されていた。  今朝焼きたてのクルミクッキーと、記憶喪失になった日に作ったピスタチオのクリームサンドのリベンジ品も用意してある。  あの日のクリームサンドは、日持ちしないものなので一人で食べてしまったからな。  それを言うとアゼルがショックを受けてしまったから、これも作り直したのだ。 『俺が食べてねえお前の菓子があったら駄目だろうが。お、俺のせいでもな。まあ、いつかまた作るんだろ? 代わりになにが欲しい? 後いつかっていつだ? 明日か? 別にいつでもいいけどよ、金貨ならここに有るぞ。いつでもいいけどよ』  アゼルらしいもう一度作ってほしいな、というお強請りのセリフ。  どうやら記憶喪失になったせいでおやつを拒否して食べ損ねたことが、かなり悔しいみたいだ。  口調はいつものツンなアゼルだったが、キューンと子犬の鳴き声が聞こえてきそうなほどしょげていた。  俺は気にしていないのだが、これでアゼルの歴代お菓子コレクションに穴ができてしまったな。  ライゼンさん曰く博物館は拡大しているならしいので、少しだけ残念だ。  閑話休題。  そんなわけで今日は格別の感謝を込めて、本人の希望を叶えるべく、ひたすら俺がガドの頭を愛でる体勢でのティータイムを楽しんでいるのである。  短いがサラサラな銀髪は触り心地がよく、ガドには申し訳ないが愛玩動物のようでなかなか楽しい。

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