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第319話

 肉に張り付いている爪の切れ目を舌先でなぞって、全体をねっとりと舐められる。  反射的に足を引き寄せようとするが、足首を掴まれているので叶わない。  くるぶしを親指でゴリゴリされながらそんなことをされると酷くくすぐったくて、俺は体をよじって身悶えた。 「ふっあはっ、ごめ……っ! あ、もっわかった、わかったから……! もう駄目だ、っ、あはははっ」 「ンン、んぅ」 「ふぁっ、ふふ、あははっ!」  我慢できずに笑いながらシーツを掴み身を震わせ抗議すると、アゼルは最後にぢゅるりと吸い付いてから、ようやく足を解放してくれた。  まったく、ついさっき風呂に入ったとは言え、足はあまり綺麗じゃないんだぞ。  後は嫌なのではなくくすぐったいので、離してもらえてほっと一息。  しかし足を離してくれたアゼルが、なぜかそのまま余韻でぐったりする俺に這いより、今度は両太ももを抱えて自分の体へ引き寄せる。 「ぅおっ、どした? ……もうくすぐる系はダメだぞ」  引き寄せられたので座るアゼルの上に尻が乗っている状態だった俺は、腹筋を使って起き上がりながら尋ねる。  そうすると膝の上に座った俺と座られたアゼルが、向かい合わせの形になった。 「アゼル? どうかしたか」  落ちないようにアゼルの肩に手を置き、首をかしげる。  自分より少し下に見える彼の表情はへの字口になりつつもなにか言いたげだが、まだ怒っているのだろうか。  アゼルは俺が訴えの内容を理解していないのがわかったのか、無言のままで手を振って部屋の灯りを消した。  当然室内は薄暗くなるが、月明かりがたっぷりと入るのでなんら問題なく、お互いの姿は表情だってよく見える。  明かりを消したということは、もう眠くなったから抱き寄せたのか?  ふむと納得しそうになった俺がそう言う前に、黙ったままのアゼルの手によって、夜着のボタンが手馴れたように片手でさっさと外されていく。  ふむふむ。  なるほど。 「アゼル……足舐めでその気になったな?」 「うっ、うるせぇっ」  たどり着いた図星を突くと、真っ赤になりながらガルルルルと唸り声をあげて威嚇された。  どうやら本当に俺の足を舐めただけで、ムラムラスイッチを押されたらしい。  誘惑なんかしていないのに、ちょっと簡単すぎないか?  俺は自分の服のボタンが外されていく間にアゼルの服のボタンを外しながら、もしも妖艶な大人の女性に煽られたらあっさりその気になるんじゃないかと、そこはかとなく心配になった。  うぅん、足舐めでムラムラするなんて。  これはアゼルの煽り耐性を鍛え上げないと、いつか誰かと過ちが起こるかもしれないレベルでチョロイぞ。  アゼルは絶対に浮気はしないが、男の下半身は誘惑に弱いのだ。面目ない。  先にボタンを外し終えたアゼルに骨盤の上あたりをなでられながら、俺はアゼルの鎖骨から胸元に手を這わせて、ならばと気合を入れる。  やることは決まっているのだ。 「今日は俺も触りたい。だから俺へのお触りは控えめで頼む。血を吸うのは禁止だ。余裕がなくなる」 「は? ……は!?」  意気込んで告げるとアゼルは目を丸くして、絶望と希望の入り混じった複雑な表情になってしまった。器用だな。  ようはあれだ。  俺相手じゃないと満足できないようにすればいいんだ。  そうしたら多少の煽りを受けても、他の人だと物足りなくて一夜の過ちすら起こらないはず。……は、はず。  コホン。  俺自身が既にその状態なんだから、効果は間違いなくある。身を持ってある。  テクニックには自信がないのでポジション変更はできないが、開発される側は慣れているのでされることをし返せば大丈夫だろう。  それに、俺は近頃〝子犬の躾け方〟という本を読んでいる。  アゼルと子犬は概ね同じで問題がないので、安心して身を任せてほしい。

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