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第326話※

 角度を変えながら緩急をつけた、激しいストローク。  長いような一瞬のような時間で思考能力を削がれた頭じゃらまともな言葉も殆ど吐けない。  ただ揺さぶられ、自らも受け入れ、互いの乱れた呼吸と嬌声が交じり合うだけだ。 「……は、っ」  一度達したにも関わらずまた限界を迎えそうな中、そっと腰を掴んでいた手が離れた。  突き上げると共に覆いかぶさる、汗ばんだ身体。  腕が伸ばされ投げ出されるしかない俺の手に、背後から指が絡まり重ねられる。  乱れながらもそれを握り返すと、耳元で含み笑いが聞こえてガリッと耳たぶを噛まれた。 「いッ、ぁ、ヒぅ……っ!」 「ン、っ、ぅ」 「ぅあっ……!」  ビクンッ、と僅かな痛みに震えた時。  腹の中を犯していたものがはじけ、体内にドクドクと熱い精が注ぎ込まれる。  腹の中だけでなく、胸の内まで満たされていくような感覚。 「んぁ、あ……あっ、あぁぁ……!」  たまらなく心地いい温度や背中から感じる鼓動にギュウ、と無意識に怒張を締め付けてしまった。  少しも漏らさないよう、薄く目を閉じて浸る。  強く締め付け肉襞を蠕動させると、前立腺が圧迫され、ブルリと身震いした。  そうするだけで限界まで張り詰めていた俺のモノからも、数拍遅れて白濁液が吐き出される。  脳を甘い絶頂が支配するのだ。  息が止まるような快感。  繋いだ手が震えて薄目の先の視界がぼやける。 「んん……っん、は…奥……熱い……」 「ン、お前の中も熱ぃ」 「ぅあっ……!」  ぐったりと脱力しながら余韻に浸っていると、相変わらず復活の早いアゼルは、噛み付いた耳朶に舌を這わせていたわる。  絡み合った指を解いて手のひらを滑らせ、うつ伏せの俺に触れる手。  舌は項に移動し、くすぐったくて身をよじると、脇腹をなでられ反撃を受けた。  未だに敏感になっている肌がピクッ、と跳ねる。 「う、ん……っは、くすぐるの、だめだぞ……?」 「……。してる時くすぐったら、すげぇことになりそうだな」 「こら、いやだ……ンん…、」  背中にキスマークを散らしながら神妙につぶやかれて、ぼんやりした頭でもだめだと判断する。  なりそうというかなるぞ。断言しよう。  初めの間はやるかやらないか迷ったんだろうな。 「じゃあ、しなければイイ、ということ……うん」 「っと、」  絶頂の余韻が引いた頃。  まだまだシたりないアゼルが俺をひっくり返し、グイッと片足をあげた。  額に腕を置き、アゼルを見上げる。  月明かりに照らされた彼の様子を見るに、まだまだ夜は長そうだ。  かくいう俺も挿入されたままのモノがグチュ、と擦れるのを感じて、中が切なくなってくる。 「あっ……んぅ……ふふ」  半端に続く刺激にうずうずと疼き、もっと強くされないと物足りない。  思わず笑ってしまうと共に、ふとリューオと交わした午後の話を思い出した。  受身側がネコだという話だ。 「っふ……!」 「ん、これは純然たる栄養補給……」  太ももを軽くかじられて小さな傷がつくと、俺に言い訳をするアゼルは、傷から血を吸い始める。  こうして少しずつ吸血してくるということは、たくさんしたいというオネダリである。 「ン、っ……そ、いえば……俺は界隈の名称で、ネコというらしい。お前は……タチというらしいぞ」 「あ? なんだよ、それ。俺は俺だろうが」 「ぁ…、っん……だから、そういう、役名……? だとか、ンン……」  足から血を吸いながら緩やかな抽挿を再開するアゼルに、クスリと笑いかけた。  名前だと思ってるな。  いいことを思いついた俺は額の熱を押さえていない方の手を、そっと猫の手の形にしてみる。  こんなことをしたのはただ俺がこう見えて冗談が好きだというだけなんだが……。  そんな言い訳が伝わるほど、アゼルは甘くなかったことは確かだ。 「にゃん、にゃん、にゃー……。どうだ? お嫁さんがネコな俺でも……構わないか?」  それを把握していれば、本性は子犬──じゃない。  魔界最強狼なアゼルに、もっとかわいいと思ってもらえるといいな。  なんて思いつきを実践する暴挙には、出なかったと思う。  ──まさか成人男性である俺が、一晩中猫の鳴き真似をさせられるとは。  やはり魔族は基本的に過激だな……。

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