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第330話(sideアゼル)

 リューオの部屋には、すぐに到着した。  俺はもっくもっくとサンドイッチを食べながら、昨日シャルに聞いたことを実践した結果らしいコイツの話に、耳を傾ける。  しかし話半分に聞きながら、俺の視線はリューオの手にあるタオルに釘付けだったりした。  ちゃんと話を最後まで聞かないと渡さないと、残酷な仕打ちを受けているのだ。  クソ、コイツ勇者じゃなくて魔王じゃねぇか?  違う魔王は俺だ。チクショウめ。 「テメェ話聞いてねェだろ。シャルに収集癖バラすぞオイ」 「それをバラすなら今のうちに口封じがてらワンパン決めるかんな。そしてこの悪の所業をユリスにバラすぜ」 「!? 悪魔かッ!?」 「ハンッ。魔王様だぞ、クククッ……!」  あっちこっちにいろんなものが置いてある散らかったリューオの部屋で、暗黒系の笑みを浮かべる。  それを見たリューオは、ガオウッと吠えてふてくされた。  まあすねんなよ。  こう見えてそれなりに、ちゃんと聞いてる。  俺だって人に相談されるという稀有な状況に、シャルを参考にすることで多少慣れてきたんだぜ?  褒めてくれてもいい。ふふん。  けれど昨日のシャルの話を聞いていた俺は、リューオに言いたいことがあった。  最後の一口を食べ終えて、麦茶を一杯飲む。  麦茶は初夏に取れる大麦の種を煎ったお茶だが、魔族はあまり飲まない。  だがシャルも暑くなると冷やしたコレが好きなので、魔王城でまとまった量を常備しているのだ。 「まず聞け、クソ勇者」 「あんだよ」 「シャルは猫じゃねぇ、犬タイプだッ! 猫もいいけどな!」 「知ぃぃるぅぅかぁぁぁぁッッ!!」  昨日からずっと思っていたことを言えて、スッキリ爽やかな俺。  しかしリューオは青筋を立てながら聖剣を取り出し、ドガァンッ! と俺の座っていた椅子を破壊した。  フンッ、なにキレてんだコイツは。  最重要事項だろうがッ!  シャルは犬だ! ツンツンなんてしねぇんだよ素人がッ!  犬耳犬尻尾で首輪をつけたシャルの可愛さがわかんねぇのか!?  聖剣の一撃を難なく避けていた俺は、さりげなく血鎌を伸ばしてシャルの使用済みタオルを奪い、召喚魔法域にしまった。  ぬかりねぇぜ。俺だからな。 「テメェマジいい加減にしろよッ! 人の話を聞かねぇ駄犬は、今日こそ力技でしつけてやらァッ!」  バァンッ! 「いいぜコノヤロー望むところだッ、掛かってこいよッ!」  飛び上がって窓際に逃げた俺を、リューオがそのまま聖剣振り回して追いかけてきた。  俺は戦闘バカを引き連れ外へ続く窓を吹っ飛ばし、二人そのまま外へ出る。  屋根を伝って鎌と剣で斬り合いながら走ると、キィンッ、キィンッ、とぶつかり合うたびに火花が散った。  外の従魔達は訓練されたように散り散りになっていく。  短気な俺達による魔王VS勇者はいつものことなので、慣れているのだ。 「テメェに相談した俺が馬鹿だったわッ! シャルんとこいったらユリスの声が聞こえたからって、お前に聞いたのが間違いだったわッ! この嫁馬鹿クソ魔王ッ! あとさり気なく俺のリーサルウェポン回収してんじゃねェよッ!」  キィンッ! 「なに言ってやがるシャル関連グッズは旦那である俺のもんだろうがッ! シャルはもはやシャルである時点で最高に可愛いが、犬耳は神がかってんだよッ! ふっと笑ってアゼル、って呼びながら尻尾がゆらゆらなんだよ可愛いんだよッ! お手っていったらん? って首かしげながらわん、ってッ! わんってッッ!!」  ドゴォンッ! 「犬耳が神がかってんのは知ってるわ犬耳なら俺の恋人が存在で最高を証明してるわァッ! 気持ちよかったらピクピクすんだよッ! 耳の付け根触ったらそこやだ、さわんないでってッ! 珍しくもじもじするんだよ最高だわ犬耳ィッッ!!」  ドガガガガッ! 「わかってんじゃねぇかアアアアアアアッ!」 「テメェもなアアアアアアアアアアッ!」  ──ドガァァァァァンッ!!  俺の闇魔法とリューオの炎魔法の塊同士がぶつかって、ひときわ大きな衝撃波が起こる。  おかげで緑化的な目的で作ってあった城の森が、半分まるごとクレーターになってしまった。  仲の悪い俺達がこういう些細な喧嘩をすると、とりあえず地面がえぐれるのもいつものことだ。  いいか? 犬耳は最高だぜッ!!

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