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第347話

 取り敢えず人間国ではここまで重ねられる人はあまりいなかったと思うが……。  世間知らずな引きこもりだったから、意外と誰でもできるなら恥ずかしいな。  不安になりつつも、俺は出来上がった魔法陣をそっと投げて、教室の真ん中上空に浮かべた。  これは、浮遊によって浮いているのだ。  卵は軽量を付与して、浮かびやすくしているぞ。  そして発光によって光り始めた卵を眺め、本来は刺激がなければ爆破しない爆破の魔法陣を、頃合をみて起爆により爆発させる。  ん? そういえば教室が静かだな。  俺の魔法陣に興味をもってくれたのか?  だとしたら嬉しいぞ。 「起爆」  ボンッ!  ヤジが飛ばなくて安堵した俺がにこにこと起爆の魔法陣を発動させると、空中の発光卵は薄煙をあげて爆発した。  しかし結界により爆煙は広がらない。  それをすこしずつ晴らしていけば、硬化により無傷だった卵が、何事もなかったかのように光り輝いていた。  ああ、でももうすぐ発光の魔法陣の魔力が切れるから、消えてしまうな。  消えてしまう前に俺は前へ歩いていき、軽く跳んで卵を回収する。  食べ物を無駄にしてはいけないからな。  さてこれで終わりなんだが──どうだろうか。  教室でできる派手さはこれが限界だ。  地味でも汎用性がある魔法が魔法陣だとわかってもらえればいいが、物足りなかったかもしれない。 「ええと……終わりだぞ?」  反応を伺うように教室を見回すと、静まり返った教室の生徒達は、みんな一様にポカンと口を開けて俺を見つめていた。  うっ……や、やはりだめか。  そうだな。  このくらいアゼルなら寝起きでもやれるもんな。  宝物庫の元・俺のベッドにかけられているとんでもない強度の魔法陣結界は、多分二十は重ねているからな……。  一桁ぐらいなら魔族は朝飯前だったか。  俺は肩をすくめてクテアシスに進言した。 「申し訳ない、足りなかったな。十ぐらいは重ねておけばよかったが、わけがわからなくなりそうだったから八つしか重ねていないんだ。古代魔法陣でも書こうか?」 「……えっ? え?」 「授業時間が減ってしまうのは困るが、待ってもらえれば書くだけなら書くぞ。発動したら大規模爆破が起こるので、それは勘弁だ」 「ええええええええええええッッ!?!?」 「!?」  途端。  クテアシスは俺の言葉を聞くや、ハッと耳を劈く大声をあげる。  今度は俺が驚いて、ぽかんと口を開けてしまった。  ──な、なんなんだ? どこをミスした。  アゼルに大口叩いておいて、俺は教師に向いていないのか?  クテアシスの絶叫を皮切りに教室の静寂は破られ、一斉にざわめきだす生徒達。

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