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第351話
そう思った俺は、空軍での生活についてキャットに尋ねることにした。
「キャット、今度はお前の話が聞きたい。空軍でどんな生活をしているんだ? ガドや他の軍魔達とは、仲がいいのか?」
「うぇっ!? お、俺の話なんてなにも面白くないですよっ? いいのですか?」
「ん? かまわない。面白いかどうかなんて、関係ないじゃないか。一緒におしゃべりをするのは楽しい。理由なんて、それだけでいいだろう」
キャットは変なことを気にするんだな、と言うと、真っ赤になってまた頬をバチンッと挟み込んだ。
やめろ笑ってしまう。
そうして照れながら語りだしたキャットの、軍魔生活よもやま話。
それは本人の評価とは違って、十分に愉快だった。
普段の俺の情報源であるガドは、あまり人の話はしない。
魔界事情や、新しく見つけた美味しいもの、巡視で見た景色なんかの話をしてくれる。
しかし同じ空軍であるキャットは逆に、いろいろな魔族達との出来事を教えてくれた。
魔王城の魔族達のことをとても尊敬しているからか、俺の知っている人や知らない人まで、キャットは詳しいのだ。
例えば空軍の魔族は竜が多く、みんなとてもよく食べるので巡視隊は隊ごとにその場で昼食の魔物を狩って食事にするらしい。
そしてその内容でいつも揉めるのだとか。
だけど大体肉であることに、かわりはないそうだ。
そして長官であるガドは部隊の編成をして、足りないところにつくので、その隊は当たりになる。
ついていくのに苦労するが、尊敬する長官と仕事をするのは、軍魔達の名誉なのだ。
グリフォールであるキャットは攻撃と防御は得意だが、竜より飛行能力に劣る。
だから自由自在に空を舞うガドを目標に、日々頑張っているとか。
副官に選ばれたのは、彼の生涯の誇りだ。
それから飛行といえば、もうひとつ。
宰相であるライゼンさんは、戦闘能力こそ他の幹部たちより目立たないが、誰よりも優雅に空を飛ぶそうだ。
ライゼンさんが飛んだ後には不死鳥の生命エネルギーの細かな欠片が降り注ぎ、陽の光を纏って輝く。
魔界では超レア魔族クドラキオンであり魔王であるアゼルと、不死鳥であるライゼンさんが、見たらいいことがあるジンクス持ちらしい。
なるほど。
だから俺は毎日幸せなんだな。
魔王であるアゼルはキャットにとって少し恐ろしい存在であり、目の前にいると緊張するらしい。
けれど同時に、心から敬愛すべき主なのだと、彼は照れながら言う。
その理由は強さもあるが──キャットを副官に指名したのはアゼルだということが大きい。
キャットは、アゼルにとって大事な存在であるガドの補佐を任せる副官に選ばれたことが、本当に嬉しかった。
本家の次男坊で家督も継げない自分を軍で燻らせていたキャットは、そうして軍魔として尽くす決意をしたということだ。
キャットは他にも魔導研究所の所長の話や、謎めく諜報部隊の必殺仕事人ぶりをほめたたえ、語った。
「それでですね! 月に一度陸、海、空の三軍長報告会があるんですけど、そこにいるともう圧巻で!」
饒舌になった口は、止まるところを知らない。
キャットは本当に魔王城の幹部達が好きなんだな。
「海軍長官のワドラー様は軍部一の古株で、前魔王様ともご友人だったんです! その補佐官である御子息のアワヤル様も、海軍の海獣艦隊を率いて鍛え上げているので、面差しが夏の日差しのように鋭く格好いい!」
「ワドラーは確かに渋くて格好いいな。ユリスのお兄さんにも会ってみたいものだ」
「はい、是非お会いしてみてください!」
あれからずっと話が続いているが、キャットはニコニコと常に笑顔で、嬉嬉としてどんどん話す。
「陸軍長官のマルガン様もみんなスケコマシだと言いますが、俺はたくさんを愛せるお優しい方なんだと思います! だっていつも体が砕けても、先陣を切って行くんですよっ!」
「そうか、それはすごいメンツだな。ふふふ、その中に並ぶキャットもすごい魔族なんだな。かっこいいじゃないか」
「そっ!? そんなっ! そんなことないですよ! 俺なんてまだまだピヨピヨのだめ副官ですっ! かかかっかっこいいっていうのはですね、あの、陸軍長補佐官のような方をいうわけでですね……っ!」
頬を染めて語るキャットを褒めれば、彼は湯気が出そうなほど赤くなってもじもじとそんなことを言い出した。
なんだか恋する乙女のようでかわいい。
庇護欲がそそられるな。
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