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第354話
「それでどうやっていこうか」
「俺が乗せてやるぜェ~」
「グロッキーになってしまう」
「じゃあ俺が、と言いたいですけど命が惜しいので無理です。俺は抱き抱えてしか運べませんから」
「それはな……」
未だに戦闘音が響く魔王城を尻目に、俺達はのんびりと会議をして移動法を考える。
しかしままならないな。
俺が誰かに抱かれて帰るなんて、勢い余ってゼオが殺られてしまう。
「ン〜そうだなぁ〜」
そうやって三人で考え込んでいると、俺をなでるのにようやく満足したらしいガドが、頭から手を離した。
そしてポンと拍子を打ち、半身を乗り出し馬車の扉をガチャっと開ける。
そこからずっと黙り込んでいた自分の副官──キャットに、おいでおいでと手をこまねいた。
「キャットォ~、お前背に乗せて運んでやれよォ。俺の命令だぜ」
「ああ、その手があったか」
ニンマリ笑うガドの案に俺もなるほどと合点がいって、彼にならい拍子を打つ。
そうだ。
キャットは空軍であり、グリフォール魔族なのだ。形態変化ができる。
魔物のグリフォールは背に乗ることはできないが、魔族の形態変化なら危険はない。
そして高速飛行はできないので、ライド・オン・ガドのようにグロッキーになることもないのだ。
愛嬌があって人好きのする明るいキャットなら、きっと安全に俺を魔王城まで運んでくれるだろう。
屈強な竜ではないので、もしかしたら彼にとって俺はちょっと重いかもしれないが……。
ううん。
こんなことなら、ダイエットをしておくべきだった。
だが俺はそれをするとすぐに筋肉がなくなって、みすぼらしくなってしまうからな……悩みどころだ。
「まぁそれしかないな……キャット副官、早急にお願いします」
話を聞いたゼオも頷き、ガドの横から馬車の中へ顔を覗かせ、キャットに声をかけた。
満場一致で期待のこもった目を向けられ、うつむき気味に座っているキャットがそっと顔を上げる。
「許可なく俺に話しかけるなといつも言っているのが、わからないのか? そうやって貴様等がネズミにも劣る小粒脳だから、自分の部下すら止められないのだ。恥を知れ、このドグサレ共が」
「ぅよし! 一旦閉めるぞ」
「お?」「は?」
バタン、と反射的に窓を閉じ、一旦コマーシャルへと入る。コマーシャルとシャルはかけてない。
ついさっきまでの明るく愛らしい挙動と言動からは、まるで信じられないほど冷たい対応。
敬愛する上官と最推しの副官へ、鼻で笑いながらとんでもない言葉を吐き捨てたキャットに、思考タイムが必要になったのである。
「ふぅ……」
しっかり鍵も閉めたし、ちょっと落ち着こう。
さぁ、深呼吸をするんだ。
今のは俺の耳と目が、同時におかしくなった可能性がある。
そうじゃないなら原因はもしかすると……あれかも知れない。うん。間違いない。
俺は混乱を極めたまま、元に戻ったのか何事もなかったかのようにポカンとするキャットに向き直る。
そして肩をそっと優しく掴みながら、されど食い気味に、彼の眼前へ身をのり出した。
「──今朝あげた俺のビスケットが、腐ってしまっていたんだな? 大丈夫か? ごめんな、早く魔王城へ戻って薬をもらいに行こう」
「へっ!? だ、大丈夫ですよっ!? 俺はこのとおり健康体で傷ひとつありません。元気なキャットです!」
「本当のことを言ってくれ、遠慮することないんだ。飛ぶのも辛いなら……おいで、大丈夫。俺の膝を貸すから、楽になるまで横になっているといい」
「それをしたほうが俺の体が健康体ではなくなってしまいますが!?」
俺を気遣って強がるキャットをふわりと抱きしめ、さあこいと膝をぽんと叩く。
けれどキャットは頑なになにも悪いところはないと言い、全身赤くなりながら、首と手をちぎれそうなくらい左右に振った。
健康体だって?
そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないか。
でなければこんなにひよこのようにピヨピヨと豊かな表情をするお前が、大好きな二人に〝ドグサレ共〟だなんて、言うわけがないのだ。
SMクラブの帝王かと思ったぞ。
ゼオと並べれば相当売れっ子になりそうだ。
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