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第356話
──臨時教師二日目・日誌
今日は一日目に貰った意見から、まず古代文字を覚えてもらうことになった。
どうやら基礎的な単語を覚えているぐらいで、まだ全ての文字や文法を習ったわけじゃないらしい。
なので二千通りの文字を全て書き出して覚えてもらおうとしたが、黒板が足りずにうまくいかなくて反省した。
書き出されても覚えられないと言われたが、仕組みが分かればグループ分けできるのだ。
それを含めて個人的に応用の利く文言を教えると、今度は熱心に学んでくれた。
なんだか可愛いなと思った。
明日も頑張ろう。
──臨時教師三日目・日誌
今日は昨日の反省を生かして文字は諦め、生活系以外の戦闘系を教えた。
基礎魔法陣と簡単な魔法陣は全員使えることが、初日で分かっていたのだ。
初めは無理だと怒っていた生徒達も、コツを教えて一人一人につくと、優秀な彼らはみんな一つはできるようになった。
特にクテシアスは魔力が空になっていたが、三つも覚えていた。とても凄い。いいこだ。
それを褒めながら頭をなでると、怒鳴りながら振り払われてしまい、怒らせてしまったことに申し訳なくなった。
それを見ていた生徒達には、俺が悪いと言われてしまうし、困ったものだ。
曰く彼らは褒められ慣れていないらしいので、めいいっぱい褒めようと思う。
明日も頑張ろう。
──臨時教師生活四日目・日誌
今日は大変なことを知ってしまった。
どうやら魔族達にとっても魔法陣の重ねがけは難しいようで、俺は無茶を言いつけていたのだ。
それに任意起動型魔法陣や時限起動型魔法陣はまだならっていないらしく、それを言いつけた俺はとんだ鬼教師である。
それを知った後丁寧に謝って、歴史や成り立ち等、ほんの基礎から教えていくことにした。
そうすると今度は舐めていると生徒達は怒ったが、最終的にはみんな真剣に話を聞いてくれたぞ。
教科書にないが俺が人間国にいた時、魔法の教師に褒められたくて勉強した雑学なんかを添えたからだろうか。
いい生徒達でほっこりとした。
明日も頑張ろう。
追記。
この間聞いた「全自動魔法陣描画装置」というのは、俺のあだ名だったらしい。
真意を教えてくれたウィニアルトは「今は二足歩行型魔法陣辞典だよ」と笑ったが、俺は笑えなくてきょとんとするしかなかった。
──臨時教師生活五日目・日誌
今日で教師生活も五日目。
残すところあとわずかだ。
遅れた授業分はもう取り戻せていると思うのと、教科書以外の知識もなるべく伝えられたらと思う。
それに生徒達も俺になれたのか、叫ぶ以外にも声をかけてくれるようになってくれて、嬉しい限りだ。
実際の俺は大河 勝流であり、シャルであって、彼らの〝アディ先生〟ではないのだが……。
先生というのもなかなかいいものだった。
明日も頑張ろう。
「……もう限界だ」
たった半日、されど半日。
その時間を短いと思うか長いと思うかは、人それぞれだろう。
なにをするか、どこでなのか。
様々な要因が重なると、時間の概念は規定を超える。
書斎机の上で無造作に置いた日誌を眺め、肘をつき、口元に組んだ手を添えながら、絞り出すような苦悶の声でそう言う。
男はその半日を狂おしいほどの執着と独占欲で染め上げ、永久に続く地獄の時間としていた。
──アイツが手の届くところにいない地獄の半日を、もう今日で六度も繰り返している。
十分じゃないか。
彼に関してはなに一つ他の誰かに譲りたくない自分にしては、よく我慢した。
朝になれば断腸の思いで毎日送り出している。これ以上はもういいだろう。
ちゃんと帰ってくるから上空待機はだめだと言い聞かせられ、それも忠実に守っている。
自分が許可したのだから当たり前だと言われればそれまでだが、日々憎き青少年達の両親に書かせた念書を、ターゲットを見つめる殺し屋のような眼光で睨みつけているのだ。
そんなスキルはないが、多少の呪いでもかかっているかも知れない。
故に、だ。
男は随分と我慢した自分へのゴホウビに、最後の一日である明日を、宣言通り木っ端微塵にする者を見極める審判の日とすることに決めた。
少し抜けている彼のことだ。
なにかされていたり言われていても、気がつかずにいるのかもしれない。
なればこそ、この嫉妬、じゃない。
憂いを晴らすために、自分が最後に釘を刺すのだ。
我ながら優しい対応である。
ターゲット達が本当に彼に手出しをしていないのか、抜き打ちテストをしよう。
そして落第生は、来世でも二度と手出しできないようにしようか。
名案だ。
そうしよう。
「迷案です魔王様」
「お口チャックしてろライゼン!」
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