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第358話

「あはは、そうだな。それなら派手でいいかもしれない。お花は難しいが、おおきな魔法陣なら書けるかな。大きさは、魔力があれば誰でも書ける。後でコツを教えようか?」 「ふおぁ~っ! うん! やっぱりすごいねっ先生すごい! 私授業も先生も好きだなぁ~!」 「!」 「それはとても嬉しい、ありがとう。俺も好きだぞ、ウィニアルト」 「!!」  お互い分かった上での言い合いなので、ウィニアルトは「両想いだねぇあはは!」と溌剌と笑う。  もちろんクラスの生徒達は、みんな好きだ。  一人一人にいいところがあって、愛着のある生徒達だからな。 「ぉ、ぉれはちょっとせんせぇが嫌いだぁぁぁ……!」 「? どうした、クテシアス」 「? どうしたの、カイト」  そんな俺達になにやらボソボソと泣き言を漏らしたクテシアスが机に突っ伏したが、よく聞こえなかった。  声をかけてもほっとけとしか反応しないので、仕方なく授業を進める。  どうしたのだろう。  書きかけの魔法陣を黒板に書きながら、首をかしげる。  本当はお花の図形をスイッチにしたかったのかもしれないな。かわいいやつめ。 「さあ授業に戻ろう。大きな魔法陣についてだが……魔法陣のサイズは、魔力を使えば大きくできる。形を把握するのが難しいので、グラウンドいっぱいというのはおすすめできないが……理論上はインクにあたる魔力が尽きるまで書けるな」  カッカッとチョークを走らせ、自由な口はなるべく意味のある話をしようと動かす。  この話の内容はあくまでサブであり、生徒達の記憶に残れば今後の魔法陣学の授業でも役立つのではないかと思っての、雑学だ。  ちなみに理論上魔力の量が最大サイズとなるが、それはあくまで理論である。  実際にすると、精密性に大いに欠ける魔法陣になってしまうだろう。  大きな陣の形を歪みなく形成するのは、難度が高い。  そうだな……例えばだと、だ。  膨大な魔力と正確な魔力操作の両方を高レベルで持ち合わせた人ならば、陣の巨大化は出来ると思う。  けれどそれは才能の問題になってくるのだ。  俺だって魔力量は無理矢理訓練で上げただけで多いわけではないので、グラウンドいっぱいの陣を書けば、その日の魔力は尽きるだろう。 「ってことは大きいのって現実性ないんですか?」 「あぁ。使い手があまりいないだろうし、そんなに大きなものといえば、都市防衛にかけるぐらいで普段は使わないからな。使用頻度が少ないので、基礎ができても覚える優先度は低い」 「へぇ~そうなんだ~」 「私無理だなぁ、飛行できないし上から見ないとかけないでしょ?」 「だよね、私は飛べても魔力あんまりないもん。人間なら一個小隊ぐらい相手にできるけどさぁ、天使はむりだし……」 「えぇあんたはすごいって! 私なんて精霊数人でも限界だよ~」  うん、例えが物騒だ。  魔族らしいといえばそうだが、優秀な学生なら人間一個小隊を殲滅できるのか……。  勇者が一度も魔王に勝てない理由が、このへんにあると思う。  人間の人口は魔族の十倍以上なのに、領土を奪えた試しがない。  天界が狙うぐらい種族ごとチートなのだ。 「まあ出来る人は意外とあっさりやるから、あまり気を落とさなくて大丈夫だ。アゼル……じゃない。現魔王様も歴代同様、さくっと城ごと覆う防御魔法陣を重ねて強化してるぞ」 「いやいや〜アディ先生落ち着こ? 魔王様って存在を基準にしたら、あーしら全員スライムだからね?」 「ってかなんで名前の、しかも愛称でお呼びしてんの? まだ死ぬのは早いよ? 大丈夫? 悩みあんならあたしら聞くし」 「死に急ぎたいなら悩み言ってみ? 彼女? 彼氏?」 「……うっかりした……」  今までバレそうなことがなかったから安心してしまったのか、うっかりアゼル呼びをしてしまい、バキッとチョークが折れた。  危ない危ない。  俺はこういう抜けたところがあるのだ。気を付けないと。

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