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第362話

 そして困り気味に眉を垂らして振り向いた俺の視界に映る光景。  まずは股関節の可動域がどうなっているのかという程綺麗にほぼ真上を蹴り上げた、アゼル。  そしてそれをくらったのだろう一人の男子生徒が背面に仰け反りながら宙を舞う、ノックアウトの瞬間だった。 「ぎゃふんっ!」  ゴンッ! と天井に頭部を打ち付けた後、教室の後ろの方まで飛ばされたその生徒は、目を回してドサッ! と倒れた。  ええと、彼は鬼族でオーガ魔族のゴンザレスだ。  あの巨体がゴムボールのようにはじかれてしまった。 「……うあっ、しまったぁぁぁ……ッ!」  そしてそんなゴンザレスを見て、アゼルははっとして足を下ろしながら、小声で悔恨の念を紡いでいる。  なんだ、いつものうっかりか。  またしても静まり返った教室にはよく響いた、アゼルのその言葉。  いつものうっかり加減を間違えただけだということを察して、俺はほっと胸をなでおろす。  なにかにキレたわけじゃないみたいだ。  よかった。  俺はにこりと和やかな笑みを浮かべ、まったく仕方ないなぁといった風な様子で、息を吐いた。 「ほらアゼル、うっかりゴンザレスを昏倒させてないで席に着くんだ。骨は折らなかったのは偉いが、今日は仲間なんだから仲良くするんだぞ」 「ぐ……だって急に後ろから殺気感じたから、反射的に背後とって反撃しちまったんだよ……ッ! 迂闊に攻撃魔法発動させて俺の背後に立つからだろ……!?」 「ああ、そういえば殺気察知スキルがあったか。しかしもしかすると、背中に虫でも付いていたのかもしれない。お前はすぐ先手をとるからな……ちゃんと謝っておくように」  ほのぼのとつい魔王城にいる時のように穏やかな空気を出しつつも、話を聞く。  するとどうやらゴンザレスが、迂闊にアゼルの背後で魔法を使おうとしたみたいだ。  それはちょっと死に急ぎがすぎるぞ? ゴンザレス。  アゼルの背後で殺気を漏らせば、うっかり反撃されるのも頷ける。  ただ通り道だから蹴り飛ばしたとかなら叱るんだが、攻撃しようとしたなら話は別だ。  とは言え突然初対面の体験学生を攻撃するわけがないので、多分そうしないといけない理由があったんだろうな。  チカチカと星を飛ばしているゴンザレスと、真っ青で言葉を失う生徒達のためにもちゃんとしないと。  俺はアゼル贔屓をしないように、アゼルに謝罪をするよう言い含めた。 「うっ、……悪かった、クソガキ」 「ぐはっ!」  アゼルはバツが悪そうにしながらも、ゴンザレスに近づき彼をひょいと抱える。  そして手近な空席にゴンザレスをゴシャッと投げて座らせ、自分も俺の指定した席にちゃんと座った。  うん、いいこだ。  これでいいだろ? と言いたげに見えない目元でチラチラと俺を伺う。  褒められ待ちをしているアゼルに犬耳が見える気がするが、多分気のせいだ。 「「「(こ……今世紀最弱じゃなく、最強だったぁぁぁあああぁあぁ……ッ!!)」」」 「それじゃあ授業にもどるぞー、ちゃんと間違えないように気をつけて書き写すように。いいな?」 「覚えてる場合はどうすりゃいいんだ?」 「うん? そうだな、他のみんなの邪魔にならないように席についてなにかしているといい。余裕が有るなら、できてない子に教えてあげるのもいいな」 「……シャ、じゃねぇ、先生見てるぜ」 「ふふ、じゃあかっこよく見えるように頑張ろう」 「(かわいい)」  アゼルがゴンザレスの背後を取る姿を視認できず、戦慄するクラス中の心の声が聞こえるはずもない俺とアゼル。  二人揃ってしまったがために、無意識にいつもどおりののほほんとした会話を交わす。  うーん、俺達はどこにいても一緒にいるとこうなるな。  心のどこかでやっぱり俺も恋しかったのか、浮かれた脳では微塵も違和感を感じないまま、ツッコミ不在の呑気な授業は進んでいったのだった。  ──余談だが。  ゴンザレスは気絶したままだったが、うっかり意識を刈り取ってしまったアゼルが黙って俺を見つめながら、処理をした。  手元ノールックで魔法陣を書き写したメモをそっとポケットにねじ込んでいたので、きっと大丈夫だ。  アゼルは俺や魔王城の家族に手を出さなければ、基本的に温厚な平和主義者の魔王様である。  なのでこのようにツンの後にはデレる、自慢の旦那さんなのだ。

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