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第366話
──そうして生徒達が魔法陣を真面目に書いている様子を評価していた時だ。
「「!!」」
突然グラウンドの隅から大きな魔法の気配を感じ、俺達は同時にバッ! とその方向へ振り向く。
「チッ」
「全員その場で待機ッ!」
俺が現場へ走り出すより早くアゼルが走り出し、俺に一瞬目配せをした。
意図を汲み取った俺は声を張り上げて、まず周囲の他の生徒達に動かないよう指示を飛ばす。
本気モードにはなれないが、アゼルは俺より早く対処できるだろう。
ならば安全確保が先決だ。
素早くそこにいる全員の存在を確認すると、いない生徒が誰かあぶりだせた。
それは開始直後に離れた場所へ走り出してしまったクテシアスと、ウィニアルト。
ウィニアルトは、彼を追いかけたのかもしれない。
「くっ」
慌てて二人を探そうと振り向き、自分に身体強化魔法をかけた。
この間僅か三秒だ。
魔法の気配の源には、歪で巨大な魔法陣が見える。
魔力が不均等。
それに手書き故に全体の形が歪んで、余計に魔力の安定ができていない。
この距離では読み取れないが、あれはおそらくテスト問題の任意起動型噴出爆破魔法陣。
四文字の魔法陣。
例外は省くが文字が多くなると難易度は増す。
──その魔法陣が暴走を起こして、大爆発を起こす寸前じゃないか……ッ!
俺がこの危険の原因に気がついた瞬間──ドゴォォォオオォンッ!! と激しい爆破音が鳴り響いた。
「きゃあああぁああぁああぁっっ!?」
遠くの魔法陣が轟音と共に弾け、探し人の片割れの悲鳴がグラウンド中に響き渡る。
幼い形態の全力疾走により、ギリギリで魔法陣にたどり着いたアゼルを追いかける形で走り出している俺は、速度をあげる。
その目に映るのは黒々とした爆煙を巻き上げ、空に吹き飛ぶウィニアルトの姿。
かなり上空に打ち上げられているのと、理由は分からないが翼が動かないようで、飛行が困難のようだ。
──まずいッ!
ペガサスは魔力操作に長けているタイプで、肉体が優れた種族ではない。
あのまま地面にたたきつけられたら、いくら魔族といえども若いウィニアルトは重症を免れないだろう。
爆破を噴出で打ち上げ上空を攻撃するものに、生身で巻き込まれたからだ。
「! 物理反射ッ!」
しかし俺はウィニアルトを助けに行く選択肢を捨て、未だ消えない魔法の気配に集中した。
爆風を切ってひたすら暴走している魔法陣に向かって物理反射の魔法陣を量産し、陣の真上まで伸ばして階段のように駆け上がった。
その直後起こった、第二の爆発。
「うわぁああぁああぁあッッ!?」
ドンッドゴォォンッ! と凄まじい音を立てて、同様の爆煙と悲鳴が舞い上がった。
初めよりもかなり小規模だが何度か同時におこった爆発によって、今度はクテシアスが上空へ吹き上げられそばにいた俺の目の前に弾き飛ばされてきたのだ。
嫌な予感は当たるもの。
ああもう、まったく仕方のない子だな。
これも教師の仕事か。
自分の作り上げた足場の魔法陣を蹴り上げ、彼に向かってぐっと手を伸ばす。
「うああぁっっ!!!」
「よっと」
「ひえっ!?」
そして体を引き寄せ、軽量と浮遊の二重魔法陣を俺とクテシアスの両方にかけ、横向きに抱きとめた。
「無事だな? クテシアス」
「んなっ!? あっアディせんせぇッ!?」
かすり傷程度で大きな怪我はなさそうなクテシアスは、抱きとめられたまま目を見開いて、驚愕した。
うんうん、よかった。
もう安心するといい。
浮遊では人ほど重いものは浮かせられないが、軽量と併用して落下速度を落としている。落下死はしないぞ。
ちらりと先に吹き飛んでいたウィニアルトのいた方向を見ると、ウィニアルトを俺と同じく横抱きに捕まえたアゼルが上空にいる。
仏頂面の王子様に、硬直しているお姫様だ。これもまた、予想通り。
そう。
アゼルが行くとわかっていたから、俺は第二の爆発の気配を優先したわけだ。
でないとクテシアスの救出に集中できなかっただろう。
アゼルは魔法陣も使わず自然落下で地面に落ちていたが、あれはアイツだからできること。
まだ若い生徒達や中身は人間である俺にはできないので、俺達はふわふわと降りような。
任せっきりなのは気が引けるが、アゼルがいるとだいたいなんとかなってしまうので、俺はついつい甘えてしまう。
アゼルは今は生徒なのに、俺より先に魔法の暴走をなんとかしてくれた。
なにをしてくれたのかは、多分傍目にはわからなかったと思う。
本当に頼りになる旦那さんだ。
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