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第367話
俺に今いる生徒達の注意喚起を任せたアゼルは先に走り出し、俺が振り向いた時には爆発寸前の現場にたどり着いていた。
そして遠くてよく見えなかったが、なにかいじったんだろう。
第二の爆発の規模がちいさくなっていたのは、そのせいだ。
抱えているクテシアスをうっすらと包んでいる闇の魔力から、おそらく耐性魔法をかけたんだ。
大きなケガがないのはそういうことだな。
俺が確認できたのはここまでだが、あいつはやっぱり単独先行ならいろいろと素早い。
変装が解けないよう初期形態だが、とても頼りになる。惚れ直した。
「っとっま、こ、この抱き方やめろぉぉうっっ!!」
なんて、アゼルはカッコイイなと思っていると、ようやく混乱の世界から我に返ったらしいクテシアスが、吠えた。
ところどころに物理反射の魔法陣を張り、それを足場にゆっくりと地面に降りていきつつ、キョトンとする。
この抱き方とは。
クテシアスを両腕に寝そべらせ抱きしめる横抱き──いわゆる、お姫様抱っこである。
別に辱めたいわけじゃないからな?
クテシアスの背には翼があり、肩に担ぐことは出来ない。顔に当たる。
かと言って赤ん坊のように正面から抱えると、前が見えない。
故にこのスタイルだ。
アゼルもウィニアルトにそうしている。
それを説明すると、クテシアスはクワッと目尻を吊り上げてウィニアルトを探そうとキョロキョロ視線を走らせた。
自分のお姫様抱っこ阻止より、ウィニアルトのお姫様抱っこ阻止が先だと思ったのか。かわいいな。
トン、と地面に降り立つと、すぐにウィニアルトを抱いたアゼルが鬼気迫る勢いで駆け寄ってきた。
「そっ、その抱き方はやめやがれッ! したいなら後で俺をいくらでもさせてやるってのに馬鹿野郎がっ!」
「お前もか」
開口一番唸られ、少し下から親の敵を見るような目でクテシアスを睨みつけるアゼル。
俺のお姫様抱っこに物申したいのは、クテシアスだけじゃなかったようだ。
と言うか、お前もウィニアルトにしているじゃないか。イーブンだろう?
そう言うとアゼルは「お姫様抱っこが気になりすぎて下ろすの忘れてたんだよっ」とツンとそっぽを向く。
忘れていたことを恥じて出たセリフだろうが、そのセリフだと忘れるくらいお姫様抱っこが羨ましかったことになる。
そうか。アゼルは俺に、お姫様抱っこをされたかったわけだな。
「よし、わかった。アゼルがお姫様になりたいなら、後でいくらでも抱っこしてあげるからな」
「このアホアホにぶちん先生め! どちらかというと俺は、おっ王子様ポジションになりてぇんだよ!」
「? あぁ、王子様抱っこか。よくわからないがそういう抱っこが「ねぇからな?」ないのか」
お姫様抱っこがあるのだから王子様抱っこがあるのかと思った俺を、アゼルはバッサリ切り捨てた。
拗ねたアゼルはポイッ、と雑にウィニアルトをお姫様抱っこから解放する。
「わぁっ!」
突然降ろされた、いや投げられたウィニアルトは驚いた声を上げつつも、どうにか着地した。
スウェンマリナで俺を抱いた時は介護かと言うほど丁寧におろしてくれたのだがな。
機嫌が悪いのかもしれない。
着地したウィニアルトを見つめ、安否を確認しながら納得した。
よし、どうやらウィニアルトにも大きな怪我はないみたいだ。
本当によかった。肝が冷えたぞ……。
無傷のウィニアルトに安堵の息を吐く。
そして俺も黙り込んでいるクテシアスを、そっと地面におろした。
黙る気持ちはよくわかる。
ウィニアルトは無傷なんだが、その、なんだ。
ちょっと、病にかかったみたいだ。
クテシアスにお姫様抱っこをする俺へ抗議することしか考えていなかったアゼルは、全く気づいていない。
アゼルに興味がないのか鈍いのかわからないが、俺とクテシアスにはすぐにわかった。
「ほぁ〜……ハウリングくん、かっこいい〜……」
「! うぅ…っ! やはり、うぅぅ憎きハウリングぅぅ……っ!」
──そう。
ウィニアルトは危機的なところで颯爽と現れ抱きとめてくれたアゼルに、すっかり頬を染めて見惚れてしまっている。
有り体に言えば、好意を抱いているようなのだ。
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