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第368話
恋愛的な一目惚れと言うやつなのかどうなのかはわからないが、チラチラとアゼルを伺ってはもじついている。
クテシアスはアゼルに故郷の村でも焼かれたのかと言うくらい、鬼気迫る視線を送っていた。
けれどアゼルはアゼルで、なぜかそわそわしながら俺の様子を伺っている。
ふむ……もしかしてこれは、あれだな?
昼ドラでありそうな、泥沼の四角関係と言うやつだな?
クテシアスが恋しているウィニアルトは、アゼルが好き。
しかしアゼルは実は魔王様で俺の旦那さんなので、俺のことを愛してくれている。
すごい関係だ。不倫じゃないか。
俺は爆発で荒れたグラウンドで巻き起こった突然の昼ドラ展開に、混乱を通り越してミーハーな気持ちになってしまった。
四角関係。初めてだ。
俺としては、もし恋愛ではないなら、ウィニアルトとアゼルのかっこよさについて語り合いたいのだ。
できれば可愛いところも語り合いたいな。
恋敵ではなくアイドル的な恋なら、それも許されるかもしれないぞ。
「ふーむ。俺の心理を表す言葉があったはず……」
なんだったかな。
前にリューオに教えてもらったんだ。
リューオはアゼルのいいところの話なんて聞いてくれないので、俺がそうしてみたいと溢したら、そう言うのをなんというのか教えてくれた。
ええと、そうだ。
同担大歓迎だ。
愛憎渦巻く三人を眺めながら、俺は一人、呑気にそんなことを考えていた。
とはいえ──いつまでもそんなことをしている場合でもない。
話を進めよう。
俺には心を鬼にして、やらねばならないことがある。
ジワジワとさり気なく俺の隣に移動してくるアゼルはいつものことだとしてな。
「クテシアス、ウィニアルト」
それを熱っぽい視線で追いかけるウィニアルトと、睨みつけるクテシアスに仁王立ちで向き合い、声をかけた。
二人がこちらを向いたのを確認してから、そっと両手を上げて、指先を親指にセットする。
キョトンとする二人。
「どうしてあぁなったのか、説明できるか?」
「うん! えっとね、カイトがなんでかこっそり大きな魔法陣を書いてたから、私は見たくなって見に行ったの。それで先生いないから、お話しながらテストしてたらね、うっかり発動させちゃって……しかもそれが失敗だったから、吹き飛んじゃった」
「ん、わかった」
前半は元気に、後半はしゅんと説明してくれたウィニアルトに、こくりと頷く。
「それじゃあクテシアスは、どうして大きな魔法陣を書こうとしたんだ?」
「そっ! そ、それは……! 別に、大きさの指定はなかっただろぉ! 俺が一番だってわかりやすいようにしようとしたんだぁっ」
「なるほど」
続いてクテシアスの話を聞いた俺は、同じく頷いて見せた。
では、と改めてコホン。
「ちなみに二人とも、大きな怪我はないみたいだが、どこも痛みはないか?」
「ないよ〜! あのね、ハウリングくんが助けてくれたからねっ、えへへ」
「んぐっ、俺だってせんせぇが助けてくれたから無傷だぜばぁか!」
二人の事情を聞いて、痛いところはないことを確認し、俺は最後に一つ頷く。
ジリジリと近付いてきたアゼルがそーっと俺の腰に手を回そうとしているが、それもいつものことなのでおいておいてだな。
二人にむかってにこりと微笑む。
ピシッピシッ!
「ふあっ」「ぅえっ」
それから俺は用意していた両手をすっと彼らの額に近づけ──俺のお仕置き用必殺技である、デコピンを食らわせた。
「それじゃあ俺は今からお前達を叱るから、ちゃんと聞くようにな」
「「うっ」」
こらこら。
しゅんとしてもだめだ。
俺は腕を組み、お説教をしますといった様相を呈する。
アゼルの手は腰にたどり着いたが、それでもお説教はやめないぞ。
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