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閑話 暑苦しいと愛くるしい
「暑い」
「暑くねェ」
「暑い」
暑くねェ、と重ねようとしたリューオの脇腹を白い肘が無言で抉り、ビクッと身体が跳ねる。
流石自慢の恋人。
鋭いエルボゥだ。
内心でそういうところも好きだぜ、と睦言を囁きながら、引き攣った笑みを浮かべる。
魅惑の恋人──ケートス魔族の犬耳美少年ユリスが、一糸纏わぬ姿で腕の中から睨みつけてきた。
アーモンド型の目にうるさいと責められ、誤魔化すように彼を抱きしめる。
現在の状況はと言うと、だ。
お泊りに来たユリスとリューオがベッドでコトをなした後の、ピロートークといった具合か。
恋人が裸で後ろから抱きしめているというのに、ユリスは海獣の尻尾でリューオを鬱陶しそうに叩きながら、暑い暑いと不満顔なのだ。
ユリスに追い払われると意地になって抱きついてしまうが、ツンとそっぽをむいているユリスはやっぱりかわいい。
抱きつくのを止める気は、さらさらなかった。かわいいからだ。
百九十近い身長に筋肉もあるリューオが小さなユリスを抱きしめると、腕の中にすっぽりと収まって、殊更愛おしい。
この小さな体についさっきまで、リューオの顔と同じく凶悪なものが入っていた。
いつも壊さないか心配になる。
なるが、止める気はこっちもさらさらなかった。
「お前もう、暑い! 筋肉ダルマは体温高くて暑苦しいんだから、ちょっと離れて寝てよ! バカっ」
「無理。俺の心が凍えるじゃねぇか。いいだろォ? イチャイチャしようぜ、まだ眠くないしよ」
「勝手に凍えて永眠してくれていいけど? 大体部屋片付けろって言ったのに、ちっとも片付けてないし! 今度巨大吸引器で全部吸い込んでやるんだからねっ?」
プンスカと効果音がつきそうな様子で怒るユリスを押さえ込み、イチャイチャを続行する。
するとユリスは、物があちこち出しっぱなしの残念な部屋を片付けろ、とキャンキャン叱った。
でないと吸引器で吸い込むらしいが、その為にまた部屋に来てくれるなら、やぶさかではない。
そんな考えがバレて中止にならないよう胸に秘めて、リューオはユリスの髪にキスをした。
「うざい」
「うぐっ」
すぐに後ろ手でペシッと額を叩かれる。
素早いツッコミだ。
流石ユリス。愛してるぜ。
なにをしても愛くるしいのでリューオはまったく懲りず、鼻を擦り付けて、ユリスの花のような香りを楽しむ。
炎属性の魔力を持つリューオは、確かに人より体温も高い。
これから多少暑くなる魔界では、素肌タッチはノーサンキューだ。
けれどユリスは暑い暑いと文句を言っても、いつだってリューオの腕の中から這い出ようとはしない。
ユリスのツンにめげないのは元々だが、それがツンなのかデレなのかも、見極めがつくようになってきた。
これはデレなのだ。
だから絶対に離さないとばかりに抱きしめ、ふわふわの耳元に唇を寄せる。
「お前となら暑くても寒くても抱き合いたいから、ゼッテェやめねェ。すげぇ好き」
「…………ふんっ、僕はお断りだよバカ。せいぜい毛布代わりになってればいいんだ」
上機嫌の赴くままに愛を伝えると、ユリスなりの好きにすればが返ってきて、ますます胸の熱が増した気がした。
魔王城のカップル達は、いつもお互いを想っているのだ。
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