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十二皿目 卵太郎、改め。

「おぉ……」  コトン、と動く卵に、俺は感嘆しながら目を輝かせる本日は──卵太郎を拾って、三ヶ月だ。  普通の鳥ならば生まれているはずの時間が過ぎたあたりから、流石にひっくり返さなくてもいい頃合い。  温めながら見守るに留めると、手がかからないいい子なうちの卵は、よく動くようになった。  まだ仕事に行くには早い朝だ。  俺は卵太郎を抱きしめて殻に耳を当て、その中にいるヒナの動きを感じ、感動する。  凄いな。  生命の神秘じゃないか。  一見して無機物のような殻の中に、確かに卵太郎は生きている。  俺のきびだんご作りも様になってきているので、本命の卵太郎が生まれてくるのが、酷く待ち遠しい。  毎日せっせとひっくり返して保温し、時に手入れをしたり歌を歌ってみたり、語りかけるのは当然。  母性のかけらもない俺だが、愛情を込めて、大事に育てたつもりだ。 「うぐ、うぅ……ッ」  そんな父親の心境で包んでいる毛布の上から頬をすり寄せている俺を、複雑な表情で見つめているアゼル。  アゼルはいつも読書に使っているトラッキングチェアを引っ張ってきて、待機。  真横でギシギシ揺らし、腕を組んでいる。  興味津々なのか。 「アゼル、お前も頬ずりするか?」 「ぐぅぅっ」  卵太郎に頬を当てたまま見上げると、返事とも取れる妙な声を上げてもだもだとし始めた。  可愛がっていたのにどうしたんだろう。  アゼルだって毎日卵太郎をつついたり、ひっくり返すのを手伝ったりしていたんだぞ。  慣れた時には新しい毛布をたくさん抱えて、ツンケンと俺に差し出してきたこともあった。  初めは気に食わなさそうだったが、今は相当興味津々。  なんなら気に入っていると思う。  アゼルは卵太郎のことを、いつの間にか呼びやすくタローと呼んでいるほどだ。  卵太郎は喋らないし目もないし、アゼルが人見知りを発揮し続ける要素がないからな。  なのに俺と卵太郎を交互に見てやっぱり「うぁぁ……!」と唸るアゼルに、首を傾げるしかなかった。 「……タローのことは別に嫌いじゃねぇが、俺以外でシャルに抱きしめられるやつはみんなちょっと小憎いぜ……うぐぐ……」 「うん? 卵太郎がどうかしたのか」 「なんでもねぇっ」 「うお、」  アゼルは俺の問いかけに頭を振って、拗ねたように俺ごと卵太郎を抱きしめる。  それがいつも通り力強いものだから、俺の腕の中で卵からビシッと音が聞こえた。  ……待て。  ビシ、だと? 「ヒビが入った!」 「なあぁぁあぁぁ!?」  俺が顔を上げるのとアゼルが絶叫して冷や汗を流し始めるのは、ほぼ同時だった。  二人共拳銃を突きつけられた容疑者のようにパッ! と両手を上げる。  混乱の中ヒビの入った白い卵を見つめ、オロオロと騒ぎ立てるしかない。 「アゼルどうしようッ! お、俺が割ってしまったぞ!?」 「いやちげぇ俺だろ絶対俺だろぉぉぉぉ!? これだから嫌なんだ矮小な生き物はすぐ壊れる自業自得だ知らねぇぜ馬鹿野郎ッ! 闇回復回復回復回復かいふくぅぅぅぅう!!」 「あぁぁあもうなんか闇魔力に包まれてもずくの卵みたいになってる! 最早なにだかわからない! と言うか卵に回復魔法効くのか? 効くのかッ?」 「きききき効かねぇよ殻だからな殻自体は生きてねぇからなっ!?」 「よしわかった、俺が瞬間接着剤……ア○ンアルファを買いに行ってくる」 「アロっ、タロー回復薬か……ッ?」 「一度壊れた二人の関係みたいなもの以外は大抵これでまたくっつくんだ」 「今すぐ大量発注するぞッ!!」

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