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第386話

 ♢  ドタバタ騒動だが、今は朝だったことに気づいたので、まずはそれぞれ動き出すことにした。  アゼルは時間が押していたので仕事へ行き、俺はマルオを呼んで、今日は突然子持ちになった為お仕事ができない旨を伝え、臨時休業。  アゼル曰く、「魔力がない魔族なんていねぇから、違うものなのかもしれねえな」らしい。  何者でも俺は構わないけれど、あまり他の人に伝えないほうがよさそうだ。  タローに魔力がないことは、取り敢えず秘密に。  しばらくは城の信頼する人にしか知られないようにしないと。  そう考えをまとめ、一時納得。  俺はアゼルを送り出した後、卵の中にいたからか湿っている少女を風呂に入れた。  当然少女は生まれたてなので、一人で風呂には入れないのだ。 「こーら。お風呂に入ったらちゃんと拭かないと、風邪を引いてしまうんだぞ?」 「ぴぃ?」 「ん? 風邪はな、熱くてしんどくて苦しい〜ってなるんだ」 「ぴぃぅ!」 「あはは、遊んでいるんじゃないのに。まったくお前は」  わしわしとバスタオルで水気を取ってやりながら風邪の説明をして、倒れるふりをすると、少女は俺の真似をして倒れ込んできた。  かわいい。  なんだろう、とてもかわいい。  少女は卵の中でも声が聞こえていたのか、俺のことがわかる素振りを見せるんだ。  アゼルのこともわかるのかもしれないぞ。  言葉が聞こえ、それを理解出来ているなら話は早い。  見た目に対して知能レベルがどのくらいかわからないが、教えれば言葉も話すようになると思う。  少女は素直で、疑問に対して一つ一つ答えて言い聞かせれば、ちゃんと頷いた。天才的だ。  本当なら赤ん坊の頃からこのくらいまでが、子育ての一番大変な時期なんだが……。  俺は気がついたらお嫁さんに任せきりで、我が子が大きく育っていた父親の気分だ。  可愛がる心境に罪悪感が交じる。  そんな複雑な俺と違って、アゼルは少女が幼女生まれでも、驚いていなかった。  気にしていないのには、理由がある。  竜であるガドもそうだったらしいが、元の魔物が卵生である人型の魔族の卵は、人型の擬態で生まれるそうだ。  やっぱりこの姿が手先を器用に扱いやすいことと、本来の形態だと大きすぎて負担もあり、敵に見つかりやすくもある。  魔界では普通のことなので、割ってみないと中身がどっちかはわからないが、動揺はないと言うことだ。初耳だった。  確かに魔族はある程度まで身体の成長が早いとは聞いていた。  個体差はあっても、生まれたてでこれくらいはザラらしい。  閑話休題。  そういうことだ。  少女の姿に納得して受け入れた俺は、細かいことは気にせず、動物を飼うような気持ちだったのを、娘を持った気持ちに切り替えた。  こんなにも可愛く思い、親としてといえば未熟だが愛しさを感じるのだ。  正体や経緯は置いておくとしよう。  父性は後からついてくる。愛情はすでにしっかりとあるからな。  そうして洗面所でニコニコと笑いながら世話を焼いていると──突然、洗面所の扉がバンッ! と開いた。 「ただいまだ」 「ん、おかえりアゼル。……おかえり?」 「ぴぃぃ、ぴぃ!」 「あ? そう、ただいまだぜ、タロー」  癖で返事をしたが、おかしいぞ。  当然のように扉を開けて出入り口に立っていたのは、アゼルだった。  仕事に送り出したはずのアゼルだ。  俺の挨拶に満足そうに笑ったが、それを真似てぴぃと鳴く少女にも、むっつりとしながらなにやら返事を返している。会話できてるのか。

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