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第387話
「アゼル、仕事はどうしたんだ?」
「うえ!? し、仕事は休みになったんだよ」
「そうなのか。いいタイミングだったな」
アゼルが少女と話すためにしゃがみこんでいた体勢のまま、事情を話してくれた。
俺は納得して、それはよかったと微笑む。なぜか気まずげに目をそらされた。どうした。
んん、本当は仕事をしたかったのだろうか……。
いやいや。ついさっきは仕事に行くのを本当に嫌がっていたから、そんなことはないと思うが。
なんでだろうと考える俺に、それよりも! と勢い良く立ち上がったアゼルは、召喚魔法で取り出したものを、ズズイと俺に差し出した。
「ほら、タローにこれを着せてやれ。城下町で翼のある魔族用の子供服がたまたまセールになっていたから、帰り道ついでに買ってきたぜ」
そして照れ顔の後、ドバサァッ! と俺に降り注ぐ衣服の山。
「んぶっ! アゼル……セレブ買いは最終奥義だと言ったじゃないか……!」
帰り道ってお前、城下町は城から出ているぞ。どんなルートで帰ってきたんだ。
そしてアゼルはたたかうコマンドで倒せるスライムに、どうして最大技を使うんだ。
大量の子供服が降り注がれた俺は服に埋まって小言を言いながら、控えめにアゼルの額を指先で弾いた。
俺の奥義、デコピンをくらえばいい。
……だからなんでデコピンされたのかわからないって顔は、やめるんだこの魔王様め……!
♢
アゼルが持ってきた服をクローゼットの空きスペースにどうにか収めて、背中の大きく開いた白いワンピースを着せてあげた。
少女はピィピィと鳴いて、喜んでいるようだ。よかったな、かわいいぞ。
小型の冷蔵庫のような魔導具である氷室からオレンジジュースを用意して──やっと一息。
さてさて。
突然魔王様のシャルさんの子育て生活が、強制的に始まってしまった現在。
これからやることは、たくさんある。
「まずは名前だな。女の子だった場合、どんな名前にするか考えていなかった」
「ぴぃぃ〜」
「タローでいいって言ってるぜ」
「んん……」
いつものティータイム用のソファーに座り、俺とアゼルで少女を挟んで腕を組む。
アゼルは少女に人見知りをせず、自分から触ることはないが特に警戒もせず、「なぁ?」と声をかけた。
少女は「ぴゅぅ」と鳴く。
まるで通じあっているような反応。
さっきから思っていたんだが……この二人は、どうやら会話が成り立っているようだ。
「アゼルはこの子の言葉がわかるのか?」
「あぁ? まぁな。魔物語は魔族みんなの初期能力だから、言葉は話せなくても意思は伝わる。タローのはちょっと違うみてぇだが、意思を乗せて鳴くだけだから、まぁわかるぜ」
「ぴぃ〜」
「また人外チートオチか。世の中のお母さんが泣くぞ」
当然の顔をして俺を見るアゼルと、アゼルの真似をしてキリッとしながら俺を見る少女。
世間のお母さんが言葉を話さずただ泣くだけの赤ん坊に、どれほど「なぜ泣いているのか教えてくれ」と土下座したくなっているのか、魔族は知らないんだろうな。
取り敢えず言葉の問題はそれで解決した。
おいおいだが、アゼルにテレパシーで翻訳して、一般言語も教えてもらえばいいんだ。
……ちょっと俺もお話してみたい。
魔物語、人間はハブられる運命らしい。
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