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第388話

 ゴホン。とにかく名前だ。  少女は自分の名前をタローでいいと言っているらしいが、流石にタローはだめだと思う。  女の子らしい名前をつけてあげたくて、やっぱり違う名前を考えることにした。  成長の早い少女は卵として生まれてどれくらいかはわからない。  けれど魔王城ですごした三ヶ月で、言葉を聞き取るだけは、聞き取れるようだ。  なので俺にはピィピィと鳴いているだけに聞こえても、その返事の翻訳をアゼルに任せるとなんともスムーズだった。  これぞ育児。  共同作業だな。 「女の子なら、俺はたまこかな。どう思う?」 『あのね、私、外のおときこえてたから、しってるよ。たまご、私のおうちのなまえだよー』 「卵みてぇだって言ってるぜ」  真剣に考えているがセンスがないので、少女に笑われてしまった。  マルオの名前をつけたのが俺だと言うことを考えると、それも必然だと思う。 「そうか……アゼルはなにか、いいのはあるか?」  俺に名付けは向いていないと考えアゼルに振ってみると、彼は途端に苦虫噛みつぶしたような顔になった。 「ぐっ……俺は生き物に名前なんか、つけたことあんの、ガドぐらいだぞ」 『がどー』 「そうなのか。いいじゃないか、ガードヴァイン。かっこいい」 『かっこいい〜?』 「! 俺の名前はどうだ?」 「ん? かっこいいな」 『な〜かっこいい!』  かっこいいとアゼルに笑い掛ける。  俺を真似て笑顔でピィピィ鳴く少女が、足をバタつかせながらアゼルの服を引いて、機嫌良さそうにした。  そしてこののほほんコンボが決まったアゼルは、黙って目頭を押さえて震え始める。  ふふふ。やはりさしものアゼルと言えども、幼気な愛らしい少女には癒やされざるを得ないというわけか。  可愛いは正義だ。無敵である。  俺はアゼルが人らしく……、と言えばおかしいが、魔王モードでも人見知りモードでもないのも、なんだか可愛く思う。  少し素っ気ないが無愛想でもなく、自然体で少女と並んでいるのが嬉しくて、二倍胸がポカポカしていた。  しばらく後。  復活したアゼル曰く、ガドの名前はアゼルがつけたらしい。  家名はライゼンさんがつけたそうだ。  シルヴァリウスと言うのは〝銀の者〟という意味である。  それじゃあガードヴァインはどういう意味なんだ? と尋ねると、そっぽを向いて「さぁな、忘れたぜ」と秘密にされた。  ──後日ライゼンさんに聞いたら〝護る〟と言う意味だったのだが、それはアゼルが言葉を間違ったからなんだと。  ガドが〝護る〟と言う意味ではなかった。  アゼルがガドを〝護る〟と言う、誓いの意味を密かに込めたみたいだ。  だけどその誓いの意味ならばまた形が変わるので、アゼルのうっかりと言うことだな。  それで忘れたと誤魔化していたのか。  かわいらしい旦那さんだ。  ──しかしそれを知ったのはまだ後日談なので、今は「忘れたのか」と納得する俺だった。 「でも前例があるなら、アゼルがいい名前を考えてあげてくれないか? この子は三ヶ月卵で話を聞いていたのかもしれないが、外のことはあまりわからないだろうし……。タローでもいいとしか言わないからな」 「じゃあタローでいいんじゃねえか?」 「タロー・ナイルゴウンはだいぶ男前だな……。たかが名前と侮ると、いじめられるかもしれないだろう?」 「あぁ? いじめ……よし。いじめるやつを鏖殺すればいいんだな」 『たろの、おうさつ〜?』 「そうだぜ、皆殺しだ」 「アゼル、名前より先に魔王学を教えるのはやめるんだ。モンスターペアレントなんて目じゃないぞそれは」  アゼルは指を立ててピコピコと言い聞かせるように、少女にいじめられたら皆殺しする旨を説明する。  こらこら、やめなさい。  アゼル二号のような性格になってしまったら、うっかりできる更地が二倍になるじゃないか。  俺がダメダメと首を振ると、仕方なく腕を組み、代案を考え始めるアゼル。 「…………よし、リティタロットにする。愛称はタローだぜ!」 『たろー!』 「結局タローなのか……っ!」  しばらく考えてから言い放たれた結論は、譲れない確固たる意志を感じる名前だった。 『りてぃあろと〜私、たろ!』  ん、んん……。  リティタロットなら愛称はリティだと思うんだが……。  まあタローが喜んでいるから、それで良いとしようか。  断固タロー推しのアゼル曰く、俺の名付けた卵太郎の一部としてタローを消さず、ゴリ押ししたいのだと言った。  ゴリ押ししないでいいぞ。  男前提だったからな。  まぁ──なにはともあれ。  アゼルと俺の娘である少女の名前は、卵太郎改め、リティタロット・ナイルゴウンとなったのだった。  ちなみに、だ。  お父さんが二人にお母さんがいない、現在の魔王様ファミリー。  しかし優秀な魔王城のママゼンさんが「魔王様ッ! 今朝の謁見をサボりましたねッ!?」と飛び込んでくるまで、あと数秒である。  魔境育ちの独り身魔王が治める魔王城は、ホットな家族には事欠かないのだ。

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