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第394話

 ぎゅうぎゅうきゃーきゃーやっていると、アゼルが枕に顔を埋めて暴れ始めた。  俺とタローはそれを見て、大笑いをする。 「あはは、冗談だ。ほら、アゼルもぎゅーをしようなー」 「ンッ!?」 『あはは〜まおちゃんぎゅー』 「ぎゅー」 「…………」 「『ぐぇぇぇ』」  うん。魔王のぎゅーは強かった。  黙って俺達を抱きしめるアゼルに、俺は中身が出そうになった。  タローも翼をバタつかせて、表面の若草をいくらか散らしている。もはや攻撃だ。  それから脱出してタローに片付けを言いつけると、タローは元の形を覚えていないなりに、木箱の中に積み木を並べていった。  順番は元のとは違うが、四苦八苦するうちうまくおさめられたようだ。  俺はその間に先にアゼルの横に寝そべり、それを一緒に見守る。 「見ろよシャル、もう一人で片付けもできるんだぜ。やっぱりタローは天才じゃねぇか?」 「奇遇だな、アゼル。俺も今そう思っていたところだ」  お互いに神妙な顔で頷き合う。  つい昨日までは卵だったのに、タローの成長には目を見張るものがあった。  赤子ではなく幼児だが。 『できたよ! 私、つみきすき〜。さいしょーさんにもういっかい、ありがとうしないとだめだね〜、しゃる、いってたもんね!』 「積み木が気に入ったから、ライゼンに改めてお礼をすると言ってやがる。見上げた気遣い精神だ。流石光属性、お前の英才教育のたまものだな」 「いいや、俺は今朝ライゼンさんに積み木を貰った時に、誰かになにかを貰ったら、その気持ちにきちんと感謝してお礼をするんだと言っただけだ。更に自分がしたいからそうすると決めるのは、タローが心のきれいな子だからだ。俺は鼻が高い。あとかわいい」 「あぁ、最高に悪くねぇ娘だぜ。あとかわいい」 「かわいい。……タロー、おいで。おやすみの時間だよ」 『! うひょぅ〜!』 「うぐっ」  積み木を本棚の空きスペースにしまったタローが、俺の上にジャンプしてバフンッ! と飛び乗ってきた。  それを中身が出そうになりながら、俺は受け止める。  ははは、愛いやつめ。  アゼルの英才教育か? 「タロー! シャルの身が出るじゃねぇか!」 「んん、お前が言うのかアゼル一号……」 「おい二号ってまさか」 『おろしてまおちゃん~!』 「チッ、寝てろひよこめ」 『はぁい』  俺の上に飛び乗ったタローを、アゼルがすぐに捕まえて、俺の隣にぽいっと投げた。  やんちゃ盛りの子供は暴走兵器だからな。  身が出ると困る。 「さぁ存分に睡眠を摂れよ」 「寝る子は育つぞ」 『ねんね〜』  アゼル、俺、タローの順で三人仲良く横になっても、大きなベッドは余裕があった。  ちょっと下敷きになっている翼が邪魔だが、仰向けのタローに痛くないのかと聞くと、痛くないらしい。  ふふふ、これは川の字というやつだ。  親子が並んで眠ると、大きさが漢字の川になる。  俺も早くに亡くした両親と、昔はこうして眠ったものだ。  懐かしくて笑ってしまう。  アゼルが手を振って、明かりを消した。  タローはそれにピィピィと鳴いておそらく「どうやって消したの?」と興味津々。  それはまた明日教えてあげような。  暗くなった室内には、ベッド上の大きな窓から魔界の明るい月明かりが降り注ぎ、ふたりの姿がよく見える。  タローは俺にピタリと寄り添って、それを見たアゼルが対抗するように俺を抱きしめる。  初夏も更けているので少し暑い。  これが幸せの熱かな。

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