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第400話

「ほぉらタロー逃げないとガオガオ怪獣に捕まンぜェ~ッ!」 「ぴぃーッ! がおっ、めっ! めっ! ぴぃぁっ! ぴぴぴゅぅ!」 「あはははッ! 捕まえたァ~!」 「ぴぴぴ~っ!」  額を押さえながら振り向くと、そこには例によってユリスについてきたリューオが──それはそれは無邪気な笑顔で、なれたようにタローと楽しく怪獣ごっこをしている光景があった。  うぅん……そうなんだ。  実は話している間遊んでてやるよとタローのお守りを引き受けた彼は、それは上手に子供の相手をこなしているんだ。  いわゆる近所のお兄ちゃん状態である。 「あんの脳筋アホ男ぉぉぉ……ッ! 生まれたての赤ん坊捕まえてなに喜んでんのさっ! 小さくてかわいければ、偉大なる魔王様の娘でもいいって言うの……!?」 「いやあれは純然たる親愛と愛玩物に対するスキンシップだと思うが……」 「平和主義のお花畑は黙ってて! 魔族舐めてるの? なんだろうが気に食わない奴は気に食わないし、自分のものを横取りされるのは許せないから。羽毛布団にしてやるぅぅぅ……ッ!」 「それは俺が困るから勘弁してくれ。気がすまないなら、俺の髪をむしってくれ」 「お前にそんなことするわけないでしょ! いいよ、間をとってリューオのあんぽんたんを丸刈りにするから!」 「俺とタローの間はリューオだったのか」  それは初耳だぞ。  ユリス論でターゲットを決めたユリスは、魔族年齢赤子でも、自分の男に手を出す存在を許さない構えだ。  ユリスは嫉妬深くて沸点が低い。  敵と決めたら遠慮なく睨みつける、魔族らしい魔族だからな。 「こちょこちょこちょこちょ~!」 「ぴぃっ! ぴっぴぴぴぴっ!」  そんなユリスの嫉妬に気がつかないリューオは、捕まえたタローをこちょこちょして遊んでいる。  笑い転げるタローがかわいい。和む。  リューオは昔人間国の村で暮らしていたから、そこの子供たちと遊んでいた経験があるんだと思う。  そしてリューオは子供が好きだ。  かわいい子も好きだ。  どちらかというと女の子が好きだ。  だからユリスは、ちっとも和んでいない。  俺はヤンキー感のある見た目と違いあんなに無邪気な笑顔を見せ、実は子供の扱いがうまいなんて、好感度アップに違いないと思ったのだが……。 「……シャル、僕あいつとしばらく口聞かないから。通訳してね?」  まずい。  好感度ダウンだ。  ユリスは笑顔でそっぽを向いてしまった。  ユリスが笑っている時は、怒り狂うのを我慢している時なのだ。  つまり本当に機嫌が良くない。  見た目がかわいくないことを気にしている俺と、ユリスは違う。  見た目がかわいいことだけを好かれているのでは? と胸の内に未だに燻らせているので、恋人がかわいい女の子に夢中なのは、逆効果だった。 「ん……昼食にしようか」 「僕パスタがいい。あとワインボトルで五本持ってこさせて」 「まだ日が高いぞ?」 「全部一人で飲むよ、明日休みだから」 「そうか……」  俺はマルオ達魔王専属従魔にしか聞こえないコウモリベルを鳴らして呼び、神妙に頷く。  つまりこれは、昼食が来るまでにどうやって丸く収めればいいのかを、考えなければならなくなったのだ。

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