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第416話(sideアゼル)

「そういうわけで、私は女装は勘弁してください。ユリスのように特に気にしないむしろ上等な子ならいいでしょうが、違和感なく女性に見えるパターンはまずいんですよ……! 私、断固女性が好きです」 「そんな言い方だと俺が男に好かれてぇとんでもないふしだらな男みたいだが、まぁ仕方ねぇな……。それなら許してやる」  自分にも火の粉がかかっていた時期があったと言う衝撃の事実も手伝って、勘弁してやる。  するとライゼンはホッと一安心してクッキーを摘もうと手を伸ばし、テーブルにそれがないことに気づいて二度見した。手遅れだ。  しかしこうなったら、またメンバーをどうにかしないといけない。  俺がこういうわがままを言える部下は、限られてるからな。  本気で怯えたり、本当は凄く嫌がっている的な奴だと困る。  俺はそういうのは汲み取れねぇ。  まだまだ難儀な魔王である。  そうやってどうしたもんかと腕を組んで悩む中──見計らったかのようにコンコン、とノックの音が響き、執務室の扉が開いた。 「失礼する。今月分の空軍寮維持費の書類を持ってきたぞ。会計部に不備があったから、こんな過疎地に直接来てやったんだ。至急決済しろ」 「キャット副官、魔王様や宰相様は普段は仕事をちゃんとする人たちなんですから、そう言う言い方はよくないですよ」 「ハンッ! そう言う貴様は普段から陸軍長官を氷漬けにして、会計部の新人だって血抜きしていたくせに……。どの面下げて俺に意見しているんだ、クソ虫が。後急に話しかけるなッ! 耳が腐り落ちるッ!」  バタン、と扉が閉じる。  入ってきたのは、魔王軍の毒舌副官コンビ。  肩書き通りの冷血漢陸軍長補佐官ゼオと、魔王である俺に対しても容赦なく罵倒を飛ばしてくる、空軍長補佐官キャットだった。  ゼオはいつも通りの無表情でキャットをジロリと睨み、わかってないなとため息を吐く。 「クソ真面目なくせにクソ口が悪いな、相変わらず。スケコマシやミジンコと魔王様たちは対応が違いますよ。当たり前でしょう?」 「貴様も相変わらずボーダーライン以下の扱いがクソ悪いな。血が凍ってるんじゃないか?」  ゼオの言葉に胡乱げな目を返したキャットは、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。  こいつ等はたまに一緒にいるのを見かけるが、キャットの毒舌がゼオにはマシマシだ。 「……クックック……」 「……あぁ……悪い顔をしてらっしゃる……」  そんな二人が書類片手にやってきたのをじっと凝視していた俺は、降って湧いた代打の存在にニヤリと笑う。  魔王顔と言われる俺の笑顔を見てライゼンが額に手を当てるが、なんのその。  大丈夫だぜ。  俺の知る限り、こいつ等の仕事はあんま立て込んでなかったかんな。  目を細めて数度瞬きすると、普段は抑えているちょっと恥ずかしい能力──魔眼が発動し、二人はビクッと一瞬震えて硬直した。 「よし、お前の代わりのメンツを確保だ。ライゼン、俺とこいつ等は明日休みを取って、グループ対抗女装コンテストに出場するぞ」 「「はい?」」 「やっぱり……。まぁ魔王様だけを放逐するのも私が出場するのも断固阻止ですから、背に腹変えられませんね……」  ふふん。  話のわかる男が腹心で、俺はいつも鼻が高い。  ──こうして魔王城即席女装ユニット〝KM(可愛い魔王)withF(副官)〟が結成され、いつもどおりのハチャメチャが幕を開けるのであった。

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