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第418話
謝罪はたくさん、それはもう懸命にした。
それについては許してくれたんだが、下がった好感度と一度でもしてしまったことの不信感は戻らない。
おそらく、そのあたりが関与しているんだろうな。
束縛や嫉妬をする気も湧かなくなってしまった。
俺としては、こういうことだろうとあたりをつけている。
アゼルのことだから、自覚がない可能性が濃厚だ。
それでもムダ毛を処理した理由にはならないのだが、それはおいおい考えるとして。
聞いても教えてくれないからな。
兎に角こうなったら、自力を磨きつつ、もう一度低迷した好感度をあげなおすんだ。
タローのかわいい慰めにより気を持ち直し、ほんのりしょぼくれつつも意気込み新たに気合を入れる。
俺はメイドさんを超えるかわいさを目指しつつ、心からの愛をいつもよりたくさん伝えることにした。
「できたよう~! しゃる、まるつけて~!」
「よしきた。今日こそはなまるをもらえるかな? タロー」
「きょうはじょうずっだよ!」
◇
──に、したのだが。
俺はタローをお風呂にいれてワシワシと髪を洗ってやりながら、渋い顔をする。
どうもおかしい。
いや、タローは今日もはなまるを貰えなかったんだが、そうじゃなく。
なぜか日が暮れて外が暗くなっても、アゼルが帰ってこないのだ。
うぅん、どうしてだろう。今日は遅くなると言っていなかった気がするのに。
いくら悩んでも時だけが過ぎ去り、朝の出来事が余計にわからなくなってきた。
んん、もしかして俺が忘れているだけか?
「タロー、お耳聞こえているか?」
「だいじょぶなんだよ~。あわあわもめにはいってないよ!」
「よしよし、ちゃんと目をつぶっていて偉いぞ。そしていいこのタローに聞きたいんだが、今朝……まおちゃんと俺は、いつもどおりだったか? アゼル、なにか言っていたか?」
「ん~? まおちゃんとしゃるは、いつもとおなじ! まおちゃんおしごといくのやだって、もだもだしててねっ。でもぎゅーして、ちゅーして、ばいばいってしてたっ。わたしともぎゅーしてくれた~」
思い返すほど本当は違うかもしれない気がしてタローに聞いてみると、俺の記憶と相違ない答えが返ってきた。
ふむ。
間違いないみたいだ。
確かにアゼルは今日も俺を抱きしめ、キスをして、出る時間が近づくにつれ親の敵のように時計を睨み、仕事に行くのを嫌そうにしていた。
ザバーッとタローの髪に湯をかけて泡を綺麗にすすいでやりながら、ホッと一安心して改めて悩ましく唸る。
「うぅん、ふむふむ……やはりこれは臭うぞ。破局の危機かもしれない」
「はきょく?」
「あぁ、ええとだな、しゃるとまおちゃんがばいばいだ」
「!? はきょくだめーっ!」
「俺もだめしたいのだが、悪いのは俺なんだ」
タローは破局の意味を知って振り向き、必死に俺にしがみついてうるりと涙目のまま叫んだ。
そうだな。
俺とアゼルが別れてしまえば、タローの親権で揉めるだろう。
親の不仲は子供にとって、トラウマ級の大事件だ。人格形成にも関わる。
かわいいタローの為にも、アゼルには早く帰ってきてほしい。
……それに、俺にとってもトラウマ級の大事件なわけで。
ふう……駄目だ。
平気な顔は得意だが、面白くないものは面白くない。
アゼルが変だと日々がつまらない。
ひっしりとタローと抱き合う俺は、午後に決めた覚悟にプラス、アゼルが帰ってきたらどうにか探りを入れることにした。
ではまずは、この鼻水までたらして崩壊し始めた娘を、なんとか安心させなければ。
「うぇぇ! はきょくやだーっ、みないふり、めっでしょぅっ、まおちゃんはやくガンガンしようっ、まおちゃんガンガン〜っ!」
「あぁっ、よしよしタロー。ガンガンはよくわからないがシャルがやるから、ほら、鼻ちーんするんだ」
「ちーんっ、ずびび、ふぐ……っ、ぐす、しゃ、しゃるぅ〜っ! ガンガンしたらちゅーしてぇ〜〜〜っ!」
「うん、うん、もちろんだとも。俺が悪かった、不安にさせるようなことを言ったな。ガンガンしてちゅーするから、タローもにこってしてくれないか? ん?」
「うぶぇぇ、っうぅ、わたし、にこってするから、まおちゃんガンガンしてね……っ?」
「わかった、俺に任せてくれ。……ちなみにガンガンってなんだ? 月刊誌か?」
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