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第419話(sideアゼル)

 仕事が終わってから、ゼオとキャットを連れて城下街へ衣装や化粧品の買い出しに行っていた俺は、少し帰りが遅くなってしまっていた。  いつもは日暮れ前には帰るんだが、日が沈んだ外は薄暗く、濃紺に染まりつつある。  この時間は食事を取って、なんなら風呂に入っている頃合いだ。  今日はシャルに遅くなるとは言ってなかったので素早く帰る予定だったんだけど、仕方ねぇ。  道具や衣装選びに妥協したら、かわいいは作れねぇかんな。  俺が明日行くのは戦場だ。  全員悩殺して、ひれ伏させるぐらいのかわいさを目指すんだ!  今日の俺は美容パックと言うぷるもち肌になるマスクや、最高級トリートメント、その他美容液各種を取り揃えた女子力という戦闘力を磨く装備を手に入れた。  明日にはフルパワーらしいが、正直俺に違いはわからねぇ。  けど、きっとわかるやつにはわかるんだろう。理解不能だが。  ゴホン。  それはさておき。  遅く帰ってきたらせっかく最近広い心で余裕ぶっていると言うのに、なにかおかしいと不審に思われるかもしれない。  どうにか言い訳の〝部下と城下町で晩飯を食うことになった〟を駆使して、だな。  俺は明日優勝トロフィーを持ち帰るまで、コンテスト出場を隠し通さないといけねぇ。  扉の前でそわそわしながら、覚悟を決めること半時間が経つ。  スーハースーハーと深呼吸。  意を決し、なに食わぬ顔でガチャ、と扉を開き、部屋の中に足を踏み出した。 「た、ただいまだぜ」  カンカンカンカンッ! 「おかえりアゼル」  チャカポコチャカポコ♪ 「おかえりまおちゃんっ」  だが踏み出した先は──なぜか陽気な、カーニバル会場だった。  ……いやちょっと待てなんだこれ夢か違うこれ現実だなんでだッ!?  俺はあまりの予想外に硬化して、うっかり自分の部屋と間違えて南国の来賓室にでも来たのかと思ってしまう。  しかし今日は他国や各地方の重役や貴族なんかも来てないので、間違いなく俺の部屋だ。  ということは、俺の目の前でブリキの缶をペーパーナイフの柄でテンポよく叩いているのは、間違いない。  風呂上がりなのか夜着姿でいいにおいを漂わせた、本物の嫁だな。  嫁の隣で同じくリズムを取りながら、片手でおもちゃのマラカスをシャキシャキと振って、もう片方で首から下げた小さめの太鼓を叩いているのも、間違いねぇ。  ワンピースタイプの夜着姿の娘も本物ということで、疑う余地がねぇわけだな。  カンカンカンカンッ! 「? どうしようタロー。ガンガンじゃないから、アゼルがフリーズして帰ってこない」  チャカポコチャカポコ♪ 「! わたし、がんがんいう! がんがんっ! まおちゃんあさがえりしないっていってぇ〜っ?」  カコーンッ! カコーンッ! 「そうだそうだ。まおちゃん、朝帰りしないって言ってくれ」  チャッチャッチャッチャッ♪ 「いってくれっ」  ピクリともせず扉の前で二人を見つめていると、至極真剣な表情で真面目に缶を叩いているシャルが、ガンガンがどうのこうのと言った。  タローが俺を下から必死に睨んでなにやら訴え、シャルはそれに便乗する形で同じく訴える。  リズムも小刻みになり、BGMがボス戦的な盛り上がりを見せた。  そういうエンターテイメント性はいらねぇ馬鹿野郎。真面目なかわいい共め。  しかしながら、だめだ。  俺は勇者じゃなく魔王なので、この至って真面目な音楽隊に、華麗なツッコミを入れることができない。  ノリのいい音楽と共に、二人揃って「もっと早く帰ってきて」コールをされる。  そうなると言えることは、一つだけ。  ようやくフリーズから立ち直った俺は、目を吊り上げて機嫌悪くドバーンッ! と叫んだ。 「今日は! 部下と! 晩飯を! 食うことに! なっただけッ! 俺は子供じゃねぇんだ、付き合いもあるッ! このくらいでいちいちめそめそするんじゃねえぜッ! かわいい共めッ!」  カンッ、カコーン……。 「っ……そうか……」  チャッ、チャカ……。 「ぴ、ぴぃ……ごめんなさい……」 「明日は早く帰るッ!」  勘違いするなよ。  別に嬉しいのを隠すためにキレてるわけじゃねえぞ。  とりあえず明日はトロフィー掻っ攫って、できるだけの速度を出し直帰するってだけだ。  深い意味はねぇ。  かわいいトロフィーは二人にやろう。

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