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第422話(sideアゼル)
なんてこった。
俺は別に女装癖があるわけでもなく、ましてや女装姿なんてシャルに見せたくねぇんだぞ。
いつの間にか、勘づかれてんのか……ッ!?
ただかわいがりたいなら、俺が名実ともに誰よりもかわいくなれば良い。
女がイイとなれば、俺が女も兼ねればイイと思って女装に至っただけだ。
優勝トロフィーと賞状を持ち帰りドヤ顔ひっさげて突き付け、シャルに惚れ直されたいだけなんだ。
純粋に下がっている(と俺は思っている)好感度を上げたいだけで、やましいことはなにもない。
しかし隠し事の内容を言えず、シャルがどこまで知っているのかと震えて動揺する。
返事を返さない俺に、シャルは腕の中で身じろいで、首を出来るだけ後ろに向けた。
「言えないことなら聞かないぞ。でも言えることなら、言ってほしい。特にどうしてムダ毛を処理したのかと言うあたりを、詳しく聞きたい。お前のことで知らないことがあるのは、面白くない」
「お、お前に言えないことなんかあるわけねぇだろ。ただなんだ、隠し事じゃねえけど、最近の俺に深い意味はない。毛をそったのは……は、生え変わりだ。うん。なんもねぇ」
「やはり生え変わりだったか……俺もそう思っていたんだ。それじゃあどうして、俺に素っ気ない態度を取るんだ? 浮気疑惑で冷めたのか?」
「あぁ? お前のアレはもうちっっとも気にしてないって言ってんだろうがっ。まずお前をその、す、好きなことがノーマルの俺がどうやって冷めるんだよ。熱くなってねぇんだから、冷めねぇよ。馬鹿野郎め。それに素っ気なくなんかしてないだろうが? 大人対応だろ?」
「大人対応? ……抱きつかずに影から見てるのがか?」
「フンッ、それ以外になにがあんだよ。俺は! 禁欲生活を強いられていても、風呂に連れ込むのも、しつこいキスも吸血も、セクハラも、いろいろと我慢してんだ。ここのところお前が俺の知らねえ奴と話し込んでようが、メイドを熱心に見つめてようが、特に文句は言ってねぇ筈だぜ」
「んん、心の余裕が大人対応なのか」
「おう、ちっとも嫉妬なんかしねぇかんな。日中タローと遊んでいるだろうが、休憩時間に部屋凸なんかしたくもねぇ。猫派でも構わねえし、お前は安心して俺の隠し事なんか無駄な心配をやめ、不満がないよう存分にイキイキしてやがれ」
どうやら俺がコンテストに出場するのは、気がついてなかったらしい。
シャルのかわいい心配にニヤケを押さえつけ、ツンケンとした言い方になりながらも、余裕を見せつけて安心させてやった。
これは神対応なんじゃねえか?
実は何度かシャルの前ベッドと言う神器に頼ってはいるものの、俺が禁欲生活をこなし、他人とシャルの交流に割って入って威嚇するのを耐えているのは、事実だ。
正直ふとした時に二重の意味でシャルや相手に襲いかかりそうな衝動に襲われ、限界は近い。
けれど俺にしては頑張っている。
褒めてくれたっていいんだぜ。
褒めろと言う意味を込めてグリグリと頭を押し付けると、シャルは口元を緩めて、後ろ手に髪をなでてくれた。
ふふん、どうだ。
愛し合う二人に言葉はいらねぇってやつだぜ。
羨ましいだろ?
あげねえぞ。これは俺のだ。
「少しも妬かれないのは寂しいが、お前がそう言うなら俺は安心しかないな。……ちなみになんだが、チェックリストに穴を開けるべく、誘ってもいいか?」
「誘う?」
「ん……俺が隠密を使って消音結界を張れば、素股ぐらい、できる気がするんだ」
「闇、暗幕」
シャルが言い終わるやいなや。
俺は視界と音を遮る闇魔法を使い、スヤスヤと眠るタローから姿を隠した。
俺が禁欲生活をしているということは、シャルもしているということで。
俺の頑張りにより、コイツは立派な変態になっているので。
つまりそういうことだったのだ。
どんな美容液よりこれが一番俺の肌艶が良くなった気がするのは、気のせいじゃねえと思う俺だった。
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