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第436話

 珍しくされるがままのゼオをなでていると、会場内から司会らしきアナウンスが聞こえた。  マイクなんてあるはずない世界だが、魔導具とは便利なものだな。  もしかすると、カラオケなんかもあるかもしれない。夢が広がる。 『お色直し休憩が終わりました! 間もなく最終決戦が始まるので、観客の皆様は会場へお戻りください〜! それから舞台上でキャットファイトを繰り広げるピンキーさん率いる乳派と、アゼリーヌさん率いる足派の皆様も、お早く整列お願いします〜! ほら大道具! 舞台のクレーター埋めて埋めてっ!』 「……アゼリーヌというのはまさか」 「はい」  ゼオは動じることなく、コクリと頷く。  正体を隠すためだろうが、意図していなかったネーミングに、まさかと震えた。  しかもなんだ、足派と言うのは。  アゼリーヌは足派を率いているのか。  ゼオ曰く、アゼルは女装コンテストに出ているだけでは飽き足らず、休憩中なのに、ピンキーという胸が好きな人と戦っているらしい。  ふーむ。足と胸か。  アゼルのならどっちも好きだな。  アゼル派、じゃないアゼリーヌ派の俺は、どっち派でもない。  しかし一応はアゼルの応援をしたほうがいいのだろうか。  ゼオにそう尋ねれば「貴方が応援すれば本気を出してしまうので、魔界を滅ぼさない為に黙ってて下さい」と間髪入れずに切り捨てられた。  そんなことは起こらないと思うのに、ゼオは大袈裟だ。  俺はみんな違ってみんないいということで納得し、派閥を応援するのは諦めた。  話を終えた後。  選手であるゼオは、俺にそっと入ってそっと見ているように言い含めると、非常に嫌そうな顔をしながら会場内へ戻っていった。  基本的に無表情であるゼオが大袈裟に表情を変えるのは、わざとだ。  相当嫌なのだろう。  嫌ということを伝えるためのわざとだからな。 『竜の匂いで誤魔化せていますが、魔王様にはバレるかもしれないので、目立たないようにしてください』 「よし」  言いつけられたことを意識しつつ、しばらく待ってから、俺もこっそりと扉を開いた。  スキルである隠密を使えばいいのかもしれないが、周りにオカ魔さんが多くて、誰にも見られずにと言うのは難しい。  そしてアゼルは狼形態になれば、昼間でもかなり鼻が効く。  しかし人型ならそこそこ近くにいなければ大丈夫なので、人混みにまぎれれば、隠れなくともバレないだろう。  ゼオの話によると、どうやらアゼルは少し恥ずかしいスイッチが入っているらしい。  俺に女装姿プラスそれを見られたら、卒倒してしまうかもしれないみたいだ。 (むむ……ドヤ顔でムダ毛の処理をしたと誇っていたのに、見られるのは恥ずかしいのか……俺の旦那さんはやっぱりかわいいな……)  魔法が使えないので懐に入れているコインをなでる。  受付で貰った、ポイント代わりの十枚ワンセットかける五の枚数ある、コイン。  これを投じるのだ。  グウェンちゃんがアゼルはとても綺麗になっていたと言っていたし、心配である。  ゼオは無事だったが、アゼルとキャットはさり気ないお触りをされている恐れがあるだろう。  うん。しっかり見守らねば。  どさくさ紛れて不埒な目で見られたり、服をはだけさせられたり、とか。  さりげなくボディタッチをされたりといったセクハラが起こらないように、俺が目を光らせておくからな。  心の中でドンと胸を張る。  俺はそんなことをされた経験がないが、旦那さんが邪な目で見られるのはよくない。  オカ魔たちも魔法が使えず、弱体化してる筈だ。  人の身でもなにかあればしっかり守るので、安心してアゼルが密かな趣味を楽しんでくれると嬉しいぞ。

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