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第458話(no side)
◇
──フォレクスリール郊外。
「だぁぁぁっ! な、泣くなよ〜っ! ほら飴ちゃんもっとやるから、な? な? シルヴァリウスが帰ってきたら、ちゃんとお外に出してやるっ!」
「ふぐっ、ふぐぅぅ……っ」
「ロリっ子の頬袋パンッパンだべ? どうすんだよ〜! 可哀想じゃねぇか!」
ガドが飛び去ってから、一時間強。
タローが詰め込まれた檻を囲む無傷だったリンドブルム魔族達は、ワーワーギャーギャーと騒ぎながら、ほとほと困り果てていた。
「というか頑なに大声出して泣き喚いたりしないあたり、芯の強さが伺えます。俺、ロリコンだけど強い女が好きだ」
「衛兵! 衛兵ーッ! ここに変態がッ!」
「ばっか呼ぶなよ俺ら誘拐犯だぞッ! しかも軒並みロリコン、じゃねぇフェミニストだぞッ!」
「そうだった!」
いや、多少残念な竜人もいる。
が、おおむねはほとほと困り果てていた。
ガドとの決闘に敗北して意識を失った仲間は別の仲間が世話をしているので、その数はおおよそ三十人程度だ。
それでも実年齢は不明とは言え見た目は立派な成人男性が、揃って幼児の機嫌を取ろうとしているのは、どこか間抜けな光景である。
因縁のあるいけ好かない男の彼女(と、勘違いしている)であるタローは、涙を大粒いっぱい溢して涙していた。
だが口枷を外してもらっていても、決して寂しい時のように大声で号泣はしない。
唇を噛みしめる顎には、梅干しのようなシワが出来ている。
相当に我慢しているのだ。
不機嫌いっぱいに眉間にもシワを寄せ、叔父の敵達を唸り声を滲ませ睨みつける、涙目の幼児。
タローのその仏頂面は、まさに彼女の鞭担当な養父である魔王を彷彿とさせるものだった。
普段はニコニコと笑顔を振りまき、多少人見知りをするが、おおむね愛想がいいのがタローだ。
素直で何事も受け入れる様は、育ての父である魔王の妃によく似ていると言われている。
だがしかし。
一度心を決めて牙を向くならば、それは養父の魔王学が全面に押し出されてしまう。
怒り心頭のタローは、決してリンドブルムの差し出す飴玉には懐柔されず、だ。
鋭い視線は「がどくんをいじめた悪い竜人さんは、隙を見せちゃったら絶対に噛みつきますよ」と言う威圧感を瞳に宿していた。
そんな幼児にしては聡く、精霊族にしては過激なタロー。
彼女の涙目の威嚇に、胸キュンを覚え始めたのは──まさかの犯人、リンドブルム達だった。
空軍のお調子者な竜人達を見ていれば自ずと察しが付くが、本人達の弁のとおり、竜人は性質として気の良い者が多い。
自然界にいれば生命を脅かされることがあまりないため、余裕があるのだ。
竜ではなく竜人なのがミソでもある。
野生の竜は恐ろしい。
竜人達は粗野で粗暴だがお日様と昼寝、肉と甘いものが好き。楽しければオールオッケー。
そんな彼らだが、同時に、魔族でトップクラスに強さにこだわる種類でもある。
彼らにとって強い女は求愛対象であり、容姿は二の次。
またリンドブルムは小柄な女性が多く、それにともないロリコンである大柄なリンドブルム男性は、小さな少女でも求愛対象になり得たのだ。
要するに〝リンドブルムは女好きで幼女趣味な種類〟と言うことである。
現代世界なら通報待ったなしだが、見た目と年齢が当てにならない魔族の住む魔界では、特に法で縛られていない。
仮に生まれたての赤子に求婚しようが、周囲の目が「あ~……そういうアレ……?」となるだけで、問題にはならなかった。
された側は大問題だが。
本人達がいいならそれでいいのが魔界。
そんなリンドブルムにとって、番の有無は重大なステータスだ。
更に元々魔族は繁殖能力が低く女性が生まれにくい為、彼女なしのおひとり様があちらこちらに溢れている。
女性の希少性は高騰し、守られる女性達はそれに報いて、例え一妻多夫でもきちんと愛を返す。
それもあって魔族の男性は、性に奔放だが愛する女性に尽くす者が多いのが、特徴だ。
また女性も美に磨きをかけるのが常で、メンタルと押しが強い。
おかげで力で劣ろうが軽んじられることはほとんどなく、基本的に主導権は女性にあるのが一般的だった。
これらを総括すると、こうだ。
竜種であるリンドブルムは同族にマウンティングが激しく、幼い容姿の女性が好きで、彼女なしのモテない日々を嘆いている。
──とくれば、だ。
「ぐすっ、りゅ、りゅーじんさんたちは、きらいっ! いたいのは、よくないっ……! がどくんをいじめるなんて、とんでもないんだよぅっ! わたし、かじるっ! ふんっ!」
「「「お、おのれシルヴァリウスッ!!」」」
──当然、こうなる。
タローは檻の中で手も足も出なくても決して恭順せず、幼児なりに言いたいことを懸命に伝えた。
プイッとどこかの魔王のようにそっぽを向くタローは、気高き幼女だ。ドストライク幼女だ。
だからこそ、モテないリンドブルムのガドに対する対抗心に、火柱を上げさせる着火剤となっていたのだった。
全員が涙目なのはお察しだろう。
詳しくは触れないであげてほしい。
だが仮にこの中の誰かがタローを射止めたとしても、超えなければいけない壁は魔界の幹部が揃い踏みということは、彼らの知らない話である。
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