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第460話(sideグルガー)

 グルガーは頭の中で黒山の荒波になる魔族達を、試しに思いつく猛者達にけしかけてみる。  けれどどれもこれも、なんだか簡単に潰れてしまった。  ガドの動きがなんだか遅いので、思考回路は絶好調。  いやいや、うっかりさん。  仮に大量の魔族に攻撃されて、それを殺されるより早く蹴散らせるのは、今の時代だと各王の中でも一人だけだ。  あの高慢ちきな天使が代々欲しがるくらい、この世界の種族で最も攻撃に特化した種族──魔族。  その王様と言えば、我らが魔王様ただ一人。  彼がいれば種族対抗で全面戦争をしたとして、勝てないことはあっても取り敢えず負けない(・・・・)。  負けないならいつか勝てる。  だって魔族だ。  負けていないなら、勝つまで全国民で戦うに決まっている。  おとぎ話の生き物みたいだが、事実なので仕方ない。魔王は歴代の死に様で、殺されて終わった王はいないのだ。  絵本にもなっている彼らの話を寝物語に育ったグルガーを初めとする魔族は、魔王への思いが強かった。  どの魔王も魔力は他の追随を許さずピカイチで、容赦もない。  感情に惑わされず、威厳と威光に満ちている。魔王とはそういうものだ。  揺らぐことのない全員のリーダー。  心身の強さがそのまま魔族の魅力であるこの国のトップ!  強い者が大好きな竜種は、みんな魔王という存在に畏怖と敬愛の念を抱いている。  グルガーだけじゃなく、仲間たちは全員魔界軍に入って最強に仕えたいと思っていた。  軍魔は男魔族の憧れの職業である。  魔力スポットの魔王城にいれば、自然に体も強くなる。  ──だと言うのに、だ。  沼地の守護者、リンドブルムは強い種族の代名詞である竜だが、上位種ではない。  スタミナはあるが飛行に適さず、竜を始めとした飛行系魔族の精鋭集団・空軍には殆ど入れずじまい。  入れても、補欠的な立ち位置となる。  相当な鍛錬を積まねば、トップ軍団には入れない。 「さァ、解任書はこォこ。な?」  ──なのにこの男、ガードヴァイン・シルヴァリウスは、空軍長官に上り詰めた。  グルガー達の世代よりいくらか年下のくせに、トップランカーにくい込んでいる。  その昔村に住まわせてやって、いろいろと世話してやった恩なんて、綺麗さっぱり名前と共に忘れて、だ。  しれーっと魔王城へ移住しやがったガドは、空軍長官に就任しているなんて、許せるわけがない。  だって、最年少空軍長官!  迂闊に親しくして触れば、殺されるともしれないヒュドルドのくせに、なにがどうしてかモテる空軍長官!  上位種、の中でも更に強め、なので魔力魅了でイケメン、の空軍長官!  そりゃあモテる!  クソモテる! 殺意増し増し! 「ほぅれほぅれ」 「「「コイツ、ブチ殺してぇ……ッ!」」」  ガドは召喚魔法で取り出した解任書を手に持って、ひらひらと見せつける。  グルガー達が目の敵にする理由はいろいろとあるが、この二連コンボが大いに行動理念として染み付いていた。  こちらに悪意のある必死の敵を煽るのに最適なのが、飄々としたガドの態度だ。  多少わざとだがおおむね素なので、ブレなくグルガー達の琴線を触れるどころかかき鳴らす。  そのおかげで──ヘイト稼ぎは上々。  音も立てずに気配を消して、木の陰からじわじわと自分の血を操る魔王の姿も。  ガドしか見えてないリンドブルムの僅かな隙間をスルスルとくぐり抜ける、姿なきその妃も。  リンドブルム達は誰一人、気づくことはなかった。

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