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第466話
──後日談。
あの後、リンドブルム達はウェルカム誘拐犯状態の魔王城で、それは見事な無駄のない流れの元裁判にかけられた。
判決は当然有罪だったわけだが、刑に関しては実刑を免れることに。
アゼル直々の鉄拳制裁があって、もう二度とあんな馬鹿な真似はしないと誓い、念書を書かされ執行猶予付き判決となったのだ。
反省文も原稿用紙百枚書かされていた。
ボコボコにされるのと同じくらい反省文を書いている時が死屍累々だったので、竜人はやはり勉強や机仕事が苦手らしい。
魔界、やはりのどかだ。
そんな彼らはリーダーのグルガーを筆頭に、現在、丸ごとチームとして奉仕活動をしている。
監視の意味を込めて、空軍の輜重隊(いわゆる戦闘において食料や備品等を運ぶ部隊だ)に就職することになった。
いやはや。
空軍に入れなくて拗ねていたのに、執行猶予で空軍所属になるとは、いかに。
なぜ彼らの事情を知っているかと言うと、一応裁判なので、犯行動機やら諸々の事情やらの調書を取ったのである。
その結果、わかったこと。
リンドブルム達はなんと言うか……概ねガドに対する〝羨ましくて妬ましい〟を原動力に、一致団結していたらしい。
逆に凄いな。
魔族は元々感情表現が豊かでゴーイングマイウェイだが、竜人は特にそうだ。
話を聞くと、まず、過去にリンドブルムの村で暮らしていたガドから、彼らは侮辱を受けたと言う。
ガドはあのとおり、破天荒でマイペース。
今のタローくらいの歳だった昔は、それはもう輪をかけて破天荒だったようだ。
水浴びで溜池を泳ぐと、うっかり毒を撒き散らして生活用水が麻痺毒まみれ。
それを中和しようと無効化毒を滲ませれば、間違って睡眠毒を垂れ流す。
悪気はなく、子供なりにどうにかしようとした結果だ。
ガドは叱られて益々村八分にされたが、そこで抱え込むガドではない。
やっちまったぜとライゼンさんに泣きついて、相談を受けたアゼルが秒で新しい溜池を作ったとか。
更に当時、歳に合わない戦闘力を持つ彼だから、獲物を狩る担当として狩猟を行っていた。
つまり食料を献上する代わりに、村に置いてもらっていたのだ。
三ヶ月で戦闘ができるようになる竜種としては、おかしくない。
本人もちっとも苦ではなかったそうだ。
なので、意気揚々と食料調達を行っていた。
だが、ある日ガドがお裾分けだと近所に投げ込んだ魚達には、問題があった。
それは、食べるとスタミナ低下のバッドステータスを受ける、残念な毒がついたお魚だったのである。
本人はそんな魚は投げてないと笑っていたが、笑えないのがバカデビ(とガドが名前を教えてくれた竜人だ)を筆頭としたご近所のリンドブルム。
顔に当てられて体がだるおもだった抗議する竜人たちと、記憶にございませんの一点張りなガド。
意見が食い違うので、裁判官とライゼンさんが話し合った結果──真実は〝ガドの手から毒が滲んでいて、気付かず魚を手掴みで投げた〟だ。
悪意のある嫌がらせではなく、事故だった。
真相を知ったガドはニンマリとしていたが、尻尾をへたらせていたぞ。
あぁ見えて繊細だからな……。
忘れていたり知らなかったことを思い出して、落ち込んでいるんだろう。
意図せずやらかしたガドは、その他の数々の珍事もサッパリ忘却。
ポテンシャルを最大限発揮し、メキメキと頭角を現して、ついに最年少空軍長官となった。
となれば中身は自由人だが、外側はそれはもう女性受けのするスペシャルな男になる。
そのあたりはアゼルと同じだ。
魔力補正見た目が良くて権力があり、魔族的にも強い男。モテないわけがない。
ガドは堀の深いワイルドな面差しと長身の体躯に、黒い軍服。
つまり長官の色。
そして長官イコール金持ち。
世のセクシャリティが女性な男達は、話術や戦闘力や見た目を磨き、苛烈な戦場で戦っている。
しかしガドやアゼルは中身がスーパーフリーダムとツンデレパパだろうが、その戦場では立っているだけで勝ってしまう。
散々やらかされたのに、女性にもフラれたりしていれば、そりゃあヤケにもなる。
憎しみを滾らせ、カマしてやろうぜ、と一念発起するのだろうな。
んん……俺にはよくわからない。
よくわかっていない顔をしていると、バカデビは「告白した女が三人連続シルヴァリウス推しだった俺の身になれよッ!」と泣きっ面で吠えた。
なるほど。
実際フラれていたのか。
俺の身になれと言われ、バカデビを俺、女性をアゼルに置き換えて想像してみる。
すると非常に気持ちがわかったので、動機足り得ると納得した。
だってアゼルに三人連続フラレるんだろう?
そんな悲しいことはないぞ。
三人のアゼルの誰にも俺を好きになってもらえず、皆ガドがタイプだと言う……。
よし、竜の尾と角を手に入れねば。
一念発起して、俺は竜人になる。
ガドは昔の暴挙に対しては反省して、ごめんと謝っていたが、それに関してはさっぱりわからないようだ。
むむむ。ガド、アゼルに置き換えてくれ。とても悲しいぞ。
心の中で念を飛ばした。
──ちなみにそんな俺の立ち位置、傍聴人である。
傍聴人なのに皆が皆俺に「なァ?」やら「だろッ!?」やら「ですよね」やら、話を振ってくるので、一連の流れを馬鹿真面目に考察したのだ。
空軍長官に卑怯な決闘を挑み、魔王に喧嘩を売った事件と聞いて、他の傍聴人もたくさんいたのだがな。
なぜだろう。
いつの間にか、俺の周りにも無人サークルが形成されるようになった。
アゼルより直径が小さいし、サークルの外から敵意のない視線も感じるけれど、少し困る。
そして近頃魔王城の魔族が俺を〝魔王召喚スイッチ〟扱いしていると知ったのは、つい最近のことなのだ。
勘弁してほしい。
アゼルは俺を押さなくても、アゼル、と呼べば来るだろう?
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