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第468話
──輜重隊舎。
「オラァそっち持てってッ!」
「持ってるだろッ!」
「もっと持てよッ!」
「どっせぇいッ!」
「投げんなッ! 運べッ!」
「おーい! グラウンドの地ならし、誰か助 けて~! キャット副官が悩みすぎてうっかり放った風魔法、ノリでガド長官が羽ばたきで応戦したせいで、クレーターできたッ!」
「ああああもうッ! マジでこの一ヶ月クレーター何個目だよッ!? 暇なら空の魔物間引けよッ! 憧れを返せッ! 仕事しろよ空軍ッ!」
「ウロコの天日干し、わかる。竜的やりたい。わかる。わかるけど──ウモー藁ってッ! 食料自分らで調達するからって、浮いた経費でいい寝藁買ってんじゃねぇよッ!」
「ウモー藁、すっげぇ燃えるよ。ねえ見て、すっげぇ燃える。嫉妬の炎も燃えるぜ」
「それなァァァァ……ッ!」
コートの歌が三周目に突入したあたりで到着した、輜重隊舎。
そこはなんというか、運動部の部室と言った雰囲気が充満している、男の世界だった。
えっさほいさと木箱に入った荷物を運んで、飛び交う男。
やけくそ気味に土魔法を、近くの広大な荒地に放つ男。
空軍が昼寝に使う藁にしてはフカフカの寝藁を大量に運んでは、地道に燃やす男。
更にその近くにも男、男、男、以下略。
見事なほど、男の竜人しかいない。
それもどちらかというと、しっかりした体つきの男しかいない。
ユリスタイプはおろか、ライゼンさんタイプすらいなかった。
リンドブルム、ガチムチパラダイスである。
リンドブルムの女性は小柄で華奢な人しかいないのに、男性ホルモンが活発すぎた。
そんな彼らのあだ名は、ガド曰く「パシリーズ」。輜重隊を空軍のパシリ扱いしている。
パシリーズ、んん、リンドブルム達は、自由で豪快な空軍の後始末が主な仕事だ。
訓練場の補修。
間違って破壊した備品の数々の追加。
軍魔達が巡回に出ている間の空軍基地の整備等、雑務を主としてこなしているらしい。
それらは陸軍だと陸軍長官の眷属──クレイゾンビ達や、従魔であるスケルトン達がこなしている。
けれどガドにはどちらもいないので、空軍では工兵のガルダーン達が兼ねていた。
鷲頭に翼の生えた鷲頭人体のガルダーン達はフリーダムなガド達竜と違って、非常に真面目で働き者。
例えるなら、ああまで人懐こくないが、キャットのような性格だ。
文句も言わず雑事もこなしていたが、正直大変だっただろう。
リンドブルム達輜重隊の戦時以外の仕事内容を決めたのはガドなので、おそらくガルダーン達に良かれと思って決めたのだ。
ガルダーン達は喜んでいるが、当のリンドブルム達はやけっぱちである。
「しゃる、わるいりゅーじんさん、はたらきもの?」
「そうだな、いい子で働いているようだぞ」
働くリンドブルム達を見ていると、そう尋ねたタローはしゅんとする。
「わたし、めってしかるのしようとおもってたの。そいでね、わたしのがっこのふくじまんしたいの……だめかなあ……?」
「ん。服を見てもらうのは、大丈夫。差し入れを持って来たから話を聞いてくれる時間はあると思う。だがめってするのは、どうしてだ?」
「ん~! がどくんいじめた! まおちゃんはいったよ。『好きな人を傷つけた奴は、なにがなんでもぶちかませ』って! がどくんちがでてた、きず! おうさつ!」
そしてキャッキャとかわいく笑って上から俺の顔を覗き込むタローの口から、聞きたくなかった鏖殺のセリフが飛び出した。
アゼル……! 魔王学はダメだと言っただろう……! 前もって仕込むな。
働いても働いても破壊工作と気まぐれのツケが回ってくる必死なリンドブルム達に、幼女の過激な報復は惨すぎる。
まずもって魔王から仕置済みで、裁判的にもお仕置き中なのだ。
流石に同情を禁じえない。
「ええと、概ね同意するが……鏖殺はやめような。シャルのお仕置きを教えてあげるから、それにしよう。いいか? デコピンと言うんだが」
「しゃるの~! いいよっ、でこぴん!」
取り敢えず俺流抵抗術のデコピンを伝授して、ことなきを得た。
……アゼルは帰ったらお仕置きだ。
目を見つめて、只管褒めちぎってやるからな。
そうすると、彼は真っ赤になって悶絶するのだ。
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