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第473話
王様カッコ良さランキングの心配がなくなったアゼルが、改めて語ってくれた話はこうだ。
精霊王は五年前に即位しただけの新任の王で、即位する前から知り合いであり、一応人畜無害な男らしい。
元々は精霊王の後継者候補だった兄が大きな怪我を負い、なし崩し的に王になったゆるい王様だとか。
やって来るのはその精霊王と、近衛騎士団、そして彼の側近である司祭。
それはそうか。
流石に王様が一人で他国に行くなんて、危なっかしくていけないもんな。
信仰が厚くスピリチュアルな国家運営を行っている霊界では、宰相に当たる人物が司祭なのだ。
天族が自分達を神の使徒として神とほぼ同列に見ているのと違い、精霊族は神の下僕と言う思考をしている。
無宗教のある意味俺が神様だ状態なのが、魔族だったり。
海の向こうからこの魔界の近くにまで連なる、長い山脈。
彼らはその山脈を霊界として、城を構えているとか。ただその城は見えないので、他種族は近づけない。
幾つもある山の中で、比較的近くの山に精霊王の見えない城があるのだ。
明日はそこから魔王城を目指してやって来るのだが、それなりに距離がある為、到着は午後となるらしい。
明日の午後から精霊王と司祭を連れて、これまでと今後の話をする。
そして敵対意思や不穏な動きがないかを裏で探られ、夕飯を接待するのがアゼルの仕事。
後は一晩泊めて翌朝見送り、終了だ。
それだけ聞けば、特に問題のないプランだと思うが……アゼルは歓迎したくないみたいだな。
会合といえば、天族の王子とは仲が悪い上になにか個人的な出来事があったと思う。
それを思うと、精霊王ともなにかあったのかもしれない。
アゼルにそのままそれを尋ねると精霊王を思い出したのか、噛み潰す苦虫が十は増えた様に見えた。
「別に……王になってからは、なんもねぇ。それにアイツは、別に嫌いじゃねぇよ。俺より若いし、大目に見てるところはある」
「ん? それじゃあ大丈夫なんじゃないか?」
「嫌だ。だってな、他国の王族と会うってのは、なに一つ面白いことがないんだぜ? 友好的に、気を使って受け入れないとダメだから……俺の神経が、ひたすら擦り切れる」
それはもうブチブチと、と付け足したアゼルは、俺を抱きしめて匂いを嗅ぎ、気をおちつける。
どれだけ嫌なんだ。
外交が一番苦手なのだろうか。
よく考えると、そもそもアゼルはライゼンさんたち部下や民に報いるために頑張っているが、魔王業には向いていないと言っていた。
なるほどな。
究極的には、慣れない人と腹芸で戦うのは全て嫌なんだろう。
「俺はああ言う外交とか動きを探る為の会議が、全部嫌いだ。無駄だ、塵芥だ。痛くもない腹をしこたままさぐられて、つまらない話に付き合ってやるのは、苦痛でしかない」
「ふむふむ。アゼルはなまじ体が強いから、精神攻撃が一番嫌いだった」
「ふん。力で殺し合わずに貶めて利用するようなやつらは、あまねく滅べばいい。……だいたい、接待で帰るのが遅くなるだろうが」
いつものことだが、最後にボソリと付け足された言葉は、俺には届かなかった。
しかし割とシンプルな理由で非常に嫌がっていると言うのは、しっかりと伝わっている。
確かに、そう思うと嫌だな。憂鬱だ。
肉体的疲労をほぼ感じないアゼルにすると、精神的疲労が一番の大敵と言っても過言じゃない。
王様と言うのは苦手なこともしないといけない。
書類仕事とは違い、代わりになってくれる人はいないのだ。
不向きなりに何十年も頑張っているアゼルは、とても偉い。はなまるをあげよう。
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