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第479話(sideアゼル)
無言でドヤ顔をしつつ、壁際でパタパタと飛びながら待機していたマルオを呼び寄せる。
マルオには今夜泊まる部屋まで、アマダたちの案内をさせることにした。
シャル自慢はしたいが七並べはしたくないので、語るのは夕食時にしてやろう。
太陽のような笑顔でブンブンと手を振って去っていくアマダと、それを真似てチマチマ手を振ったが後ろ向きに歩くから派手に転んだルノを見送る。
そしてズゥンと閉まった巨大な扉に、こっそり中指を立てた。
「あ。そういえば、ジズの捜索について協力要請するの忘れてしまったよ。どうしようか?」
「んんと、えっと、まだあの日まで日がありますし、ばんごはんの時に言ってみましょうっ」
「うんうん、そうだな~」
閉まった扉の向こうで繰り広げられていたそんな会話は、当たり前に俺の耳には入っていなかった。
壁際に控えていた近衛に解散を命じ、一時的な開放感に息を吐く。
アイツは個人的に嫌じゃないが、俺の宝物を拝めるかというと別問題。
会ったこともなかったのに初対面で好感度が地底を突破していた天王とは違い、アマダは元々王じゃなかった。
なのでいい意味でも悪い意味でも、王様らしくないのだ。
政治に関しては政治のトップ、左王腕がいて、軍事に関しては軍事のトップ、右王腕がいる。
なのでアマダはそいつらを纏めて決定を下すだけだが、それも全て任せているそうだ。
王という役職にすらそうして縛られない自由過ぎるアマダは、俺を謀ったりしないだろう。
俺はそういう嗅覚は利くんだ。
あのキャラだから、嫌いでもない。
シャルとタローに会うのをちゃんと諦めたのも、高得点だった。
でも他種族ってのは同種族の他人とは比べ物にならないくらい意味がわからないし、相容れないことも多い。
例えば言い合いが平行線ならなんでもかんでも力で解決する、俺たち魔族のタイマン習性。
なんでもかんでも裁判やら会議で決める人間族は理解できないと言い、腕をもいだら野蛮だとキレる。
だけど俺たちからすれば、そうして無計画に増え続けた結果、資材や領土が足りなくて人様の国に侵攻してくる人間族が、理解できない。
弱者は淘汰されるべきだ。
その弱者を守る権利も、強者だけが与えられる権利だ。
意見を通したいなら、強くなればいい。
シンプルで最高だろ?
スピリチュアル信仰な秘密主義で計算高い精霊族も、俺たちのこの考えが理解できない。
となれば、俺が守るシャルやタローに疑問を抱き、無自覚に難癖付ける可能性は天族のプライドより高いのだ。
ほれみろ。危険だろ?
うっかりでアイツ等を傷つけるかもしれない他種族なんて、どんなイイやつでも初手断固拒否必須だ。
当然過ぎる。俺は家族を守る、シャル愛好者過激派筆頭だからな。
シャルとタローを愛でたきゃ、俺を倒していけってんだ。
スウィーツ男子萌えとロリコンは滅するぞ。
存分にかかってこい。
「クックックック……!」
「……一見すると魔王オーラ全開なこの笑顔、シャルさんたちのことを考えて機嫌がいいだけなんですよね……」
「フッハハハハッ……!」
魔王らしい笑みを浮かべて立ち上がり、ついさっきの口頭会議の書類を預かるライゼンを連れて執務室へ歩き出す。
ライゼンの遠い眼差しは無視だ。
これもいつものことだからな。
それよりさっきのを乗り切れば、これで夕食までの二時間くらいは普通の仕事ができる。
外交が最も嫌いな俺は、ただの書類仕事にウキウキだった。
「よし、今夜のディナーはバッファドンの丸焼きにするか。頭をあっちに向けておけよ。どうせ毎回半分くらいしか食べねえし、天然水で大丈夫とかほざきやがる。アイツのグラスには、適当にサハギンの水ブレスをついでやれ」
「魔王様、反抗期さながらの嫌がらせフルスロットルはいけません。属国になった天王様なら構いませんが、寛大なだけで一応精霊王様は対等な立場なのですよ?」
「いいや、アイツはいつも食事を残す。セクハラもする。取引も適当で、気まぐれすぎるぜ。失礼同士でトントンだろうが」
フン、と鼻を鳴らす。
俺を貶めようとはしないアマダなのであのままでいいが、失礼なのは失礼だ。
俺へのお触りの代金としては上等だろ。
シャルの取り分が減ったんだぜ。グルル。
「もう、魔王様は触っただけで減るもんじゃないでしょう? さっき剣を振り回したのも、一般的にはかなりギリです。人間国や天界なら一発アウト」
「ハッ、レッドカード上等だぜ! 本当なら今夜も俺は、シャルとタローとディナーだったんだ。相当譲ってやってる。もうディナーまで俺は執務室から出ねぇからな。精神力回復に務める」
「くっ、そんなテコでも譲らない真剣な表情で引きこもり宣言されましても……!」
うるせえぜ。
これは決定事項なんだよ。
俺はメンタル豆腐。
本当はこれっぽっちも王様向きじゃねぇんだ。ストレスマッハに決まってんだろ。
まあ休憩も兼ねて好きにしてください、とライゼンはなんやかんやと許可する。
自分もティータイムが強制だとは、知らないのだ。逃がさねぇ。
お前も一緒に、終わってから心の栄養にしようと取っておいたシャルのお菓子を食うんだぜ。ふふん。
シャル。俺の嫁。
アイツは朝食の時はなにも言わなかったのに、しれっとクルミのフロランタンを作りやがった。最高かよ。
しかもザラ紙のちいさいメモが、二枚入っていた。愛されすぎて死ぬかと思った。
俺の尊さ残機がいくらか減った。
『お疲れ様 今日は少し、甘めだ』
『まおちゃん! あまいよ!』
一枚目はいつものアイツの字で。
もう一枚は、解読不可能に近い難解なタローの字で。
タローは言葉は聞いていたからすぐに覚えたが、書いたことのない文字と言う概念に慣れなかった。
今でもまだ文字がまともに書けなくて、はなまるを貰ったことがない。
それでもそれを書いたのだから、俺は二枚揃いで宝物庫へシューティング。
そんな配達された瞬間の記憶を思い出し、じっくりと尊さを噛み締めながら執務室へ歩く、ご機嫌麗しい夕暮れ前のひとときであった。
「はぁぁぁぁ……ッ! どうしてあんなにかわいいんだ? 溺れるほど愛されるってのはこういうことだろうよ、なあライゼン。好きすぎると息ができねぇ……なんかもう、俺が足りなくねぇか? 俺一人じゃこのかわいいを受け止められねぇぞ。詳細は省くが俺は死ぬ」
「そのセリフを全て本気で言われる状況に慣れている自分が怖いのですが」
「存在してるだけで尊みが凄い。俺に笑いかける顔の眩しさが完全に浄化聖法のそれ」
「いやそれ魔王様ダメージ受けちゃう攻撃ですよね? シャルさんにそのような特殊能力はございませんよ」
「馬鹿野郎! シャルの笑顔には俺を必殺する能力があるに決まってんだろッ! もちろん進んで殺されてぇ。是非殺されてぇ。毎日がオーバーキル。はぁ……殺されるたびに恋してる俺……」
「いつまでたってもボソボソ悶えてらっしゃる魔王様には、一度本人たちにはっきり言っていただきたいと常々思っている私の心プライスレス」
「今日も俺の嫁と娘がかわいいから俺生きてる……」
「うん、通常運転ですね。我が王」
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