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第478話(sideアゼル)
それほど強いのが魔王。
だが謙遜なしの本気で、俺はシャルとタローが人質になったら手も足も出ない。情けない男だ。
大事な者ができると人は弱くなるのだと、いつか読んだ本で誰かが言っていた。
けれどおかげで頑張ることもできるとも言っていた。同意過ぎる。
あれそれと渡された書類に関して口頭で会議をしつつ、むこうが終わればこっちの報告も。
そうして数時間。
アマダは空中に浮かんでいるので、ルノにだけ指パッチンで椅子を出してやった。
召喚魔法は指パッチンだ。
発動になんらかの挙動と言う術式が組み込まれていても、大抵の魔族が指パッチンなのは、かっこよさを重視しているのだと思うぜ。
俺が覚えた時は周りの真似をして、そう覚えただけだったりする。
しかし今でもそうするのは、アイツにカッコイイと思われたいからだ。
些細であろうともなんでもする。
それが俺。
……昨日の夜。
シャルが精霊王を気にしたのは危なかった。
いやいや危なくねぇけど、危なくねぇけど万が一を俺は許さねぇかんな。
だってアマダは本当は俺より素直で俺より人懐こくて、俺より一般的に見てイイ奴で、俺より話もうまいし好き嫌いもねぇ。
茄子も食える。
カッコイイ王様で言うと惨敗だ。
シャルは俺の顔が好きなわけじゃない。
そもそも子供が好きで女が好きだから、もしかしたらルノに出会ったらそっちに興味を持つかも知んねぇぞ。
(……そんなの絶対ダメだッ!)
シャルが際限なく好きだと、いつまでたってもこうで仕方がない俺だ。
ちっともアイツ自身を疑わなくても、何度お前だけだと言われても、人の心はパカッと開けないから俺は生涯ハラハラするんだぜ。
だからこうして城に囲って隠してるんだからな。万が一でも離れたくないから。
「なあなあアゼリディアス。いい加減お前のお嫁さんに会わせてくれよ」
「寝言は墓場で言え」
「しかも風の噂によると、娘がいるらしいなー。流石魔王、手が早い」
「まとわりつくな。消え去れ、水たまり野郎が」
「うわっ、そんな怒るなよ~。挨拶しようと思っただけだぞ? もう……」
仕事だから渋々真面目にしているだけの会議に飽いている俺の内心を、見透かしたかのような言葉だ。
会議が終了して開口一番そんなことを言い出したアマダを、つい剣で振り払う。セクハラすんなッ!
剣擊を受けて逃げたアマダをあわあわと見ているルノと、シャル関連スイッチ入るのが早い俺に頭が痛そうなライゼンを横目に、断固拒否をした。
男には譲れない戦いがあるんだ。
主にシャルとタローに関連することは、譲るわけがない。
「まあ、アゼリディアスはツンデレだもんなぁ……大好きな妃は諦めるから、そう威嚇しないでくれよ。悲しいだろ」
ついさっきまで静かだった俺が話を聞いて全力で拒否するものだから、アマダは構ってほしそうにしょんぼりと笑う。
俺としては、当たり前の対応だった。
今まで俺にそこまで興味なかったくせに、シャルたちを気にするのはどういうことだ。
横恋慕しようって言うなら、俺を倒してから逝きやがれ。
「まーほらほら。今夜の部屋に案内してくれたら、ディナーまでおとなしくしてるからさっ。七並べでもやろうぜ。見張りも兼ねていいからさ」
「誰がツンデレだ、ちくしょうが。いいか? 俺の嫁の素晴らしさをディナーまでしっかり語ってやるから、精霊共にも広めておけ! 俺のモノに手を出したら、国云々より個人的に滅ぼしにかかるかんな。カワイイを煮詰めて固めたアイツは俺のモノだ!」
「え? あ、あれ? ……アゼリディアスってこんなキャラだったっけ、ライゼン」
「ええ。これでも最近欲求の我慢と、暴走をお妃様にバレないよう表に出さないことを覚えましたので、落ち着いているほうですよ」
「あはは、落ち着いてるなんてまさかだろ~」
悟りを開いているライゼンがイイ笑顔で返した言葉を、アマダは笑って流す。
フンッ、そのまさかに決まってんだろうが。
俺はシャルの前で素知らぬ顔をするってことを覚えたんだ。
一時は冷めたと思われたぐらい、完璧に隠してるぜ!
俺がシャルが好きすぎて仕事以外の思考回路はほぼシャルに持っていかれてることなんて、きっと誰も気づいてねぇ。完璧すぎる。
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