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第487話(sideゼオ)

(捜し物、捜し物ね)  ゼオは本音を言えば、精霊王の頼みで捜し物をしている彼らのことなどどうでもいい。  だがやはりなんとかせねば、場が収まらないということを理解した。  とりあえず燃え盛るサッカーボールを人間のくせに素手で持っている人間詐欺の勇者は、視界から追い出しておこう。  ゼオはため息を吐いて、仕方なく護衛部隊に向き直り、余所行きの対応で軽く頭を下げた。 「うちの軍魔が迷惑をかけたみたいで、申し訳ありませんね。精霊族の皆様。後で失血死させておきますので、ご勘弁を」 「うん? 陸軍長補佐官かぁ〜。あぁ、あぁ、いーよう。俺等捜し物してるだけで、このグラウンドを見て回ろってなったから見てるだけだし」 「そーそー。サッカーの玉には興味ねぇのよ〜」 「俺たち精霊は風の向くまま気の向くまま。水が地面に染み渡るように自由なのさ」 「そうなのさ」  その気の向く先がうちの訓練場だったから困ったものなのだが。  どうやらそれは全く考えていないらしい。  本人たちの弁のとおり、ふわふわ浮かんで自然体極まりない精霊たち。  彼らは他国の軍事施設に入り込んだ罪を、考えてはいないみたいだ。  まぁ……お客様じゃなければ、確実に仕留めていた。  軽薄で、無駄が多く、仕事をしない。  自分の仕事の邪魔をするそんな存在は、誰だろうがみんな大嫌いだ。  それは不文律であり、〝冷血〟ゼオルグッド・トードの信条である。  これが終われば終業だから不問にするけれど、ぶっちゃけ精霊族とは気が合わない。早く帰ってもらおう。 「捜し物。なにを探してるんですか?」 「卵だよ〜。白い卵を探してんの」 「あぁ、それなら厨房にありましたよ」 「え! まじでかぁ〜!」  サラリと告げられたゼオの言葉に、精霊たちがどよめいた。  みんな我先にと厨房の場所を聞き、そしてまたふよふよと風に乗って去っていく。  自由な彼らは突然やってきて、突然去っていった。  なんてはた迷惑な奴らなのだ。  消え去ればいいのに。  ゼオは胸中で数回全員を氷精霊にしてから、素知らぬ顔で彼らを見送った。 「オイ吸血野郎、それってまさか……」  察しのいい勇者が胡乱気な視線をよこすので、ゼオは静かに視線を返す。  厨房に置いてある白い卵。  それが魔界のノーマルな鶏卵だということには、気付かなくていいと言うのに。 「察しのいいガキは嫌いですよ」 「某錬金漫画のトラウマシーンのセリフを止めろッてんだこのド鬼畜冷血漢がッ! それに俺はガキじゃねェわッ!」  貧血祭りで死屍累々の部下と違って元気百倍な勇者が、余計なことに気付いて噛み付く。  めんどさくてチッと舌打ちをした。  もっとうるさくなった。めんどくさい。  もちろんゼオは現代の錬金漫画なんて知らないし、キメラ製造の趣味もないので、これはたまたまである。  ただ炎タイプなゴーイングマイウェイ族の勇者と、氷タイプなマイルール至上主義のゼオでは、相性最悪もいいとこなのだ。  ──そうして言い合う二人に、近寄ってくる影が一つ。 「魔族的にはあんた程度、クソガキ同然ですよね。居候から雇ってもらった臨時軍魔の分際で、人の言うこと聞きやがりませんし」 「おいッ! ゼオルグッド・トードォッ!」 「ン?」 「あ?」  突然、聞き覚えのある声がフルネームでゼオを呼んだ。  その声に反応したゼオと勇者は、声のしたほうへ視線を向ける。  聞き覚えのあるこの声は、同じ役職故に日常的によく聞く、あの男の声だ。  背中から生える伸縮自在な黄金色の翼に、薄い毛皮を纏った獣の手足。  尻からぴょんと伸びた獅子の尻尾。  非番だったのかラフなVネックのセーターと絞ったパンツで現れた彼は、案の定。  空軍長補佐官──キャレイナル・アッサディレイアではなかろうか。  なぜここに? という疑問を抱き、言葉にするより早く、キャットがゼオに向かって駆けてくる。  いつにも増して強烈な冷ややか目線で、吹雪を背負いながら、だ。  そしてゼオの首に両腕を伸ばしてガバッ! と飛びかかりつつ、大声で一言。 「貴様如き斯様な生き物にこの俺と共に生涯添い遂げる最上級の栄誉を授けてやろうッ! ありがたく土下座して受け取るがいいーッ!」 (意訳:好きです付き合ってください) 「や、あんたに飛びかかられたら俺死にますよね」ヒョイ。 「あふんッ!」  当然のことながら──ゼオにはその意訳が少しも伝わっていない。  熱烈告白ハグはあっさり避けられ、キャットは頭から地に沈むハメになった。

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