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第486話(sideゼオ)

 お仕置き部隊と化したコウモリ軍団は、部下を眺める。  燃え盛るサッカーボールでサッカーをして遊ぶのに邪魔な精霊たちを、追い返そうとしているのだ。  サッカーは訓練じゃない。  つまり、サボりである。  なら、お仕置だ。 『カクホ、カクホ』 『ウッカリコロスノハ?』 『ダカラダメ、ダヨ。マオウサマ、コマル。イケナイ』 『ウン。シャル、コロスキライ。ネ』 『ソレハシカタナイ。ネ。カクホ』 『カクホ、カクホ』  ゼオたちは気配を消しつつ、空の上から素早く自分の部下に狙いを定める。  そして一人一人の頭の真上と言う死角から、その首筋目掛けてブワッ! と一斉に突撃を仕掛けた。 『オレタチ、オシオキ、カクホ』 「!! オイテメェ等ァ吸血野郎だッ! やらけェ急所を守れッ! マジで吸われンぞッ!」 「!? あぁぁあゼオ副官すみませんすみません今日は夜にデートだから吸わないでぇぇぇえッ! ギャヒンッ!」  ガブ。 「ギャーッ! ゼオ様副官様お許しください俺たちはただ邪魔な水溜まりをォ……ッ! ご、ご無体なぁッ! うげぁッ!」  ガブガブ。 「うおお唸れ地をかけるユニコーン魔族の俺の俊足ッ! 容赦のなさでは魔界軍随一の鬼畜副官から逃げる今が正念場ァッあふんッ!」  ガブガブガブガブッ。  多少本音を混ぜてゼオ会議をした後、バカたちに突撃をかます。  ゼオのお仕置きに慣れている陸軍の軍魔たちは、いち早く気づいた勇者の声を皮切りに、各々がどうにか逃げようと慌て始めた。  だが、気づいてからでは遅い。  攻撃力は無関係として、小さくてすばしっこいコウモリたちと軍魔では、機動力が違うのだ。  聖剣を構えて炎の渦で自分を守った勇者以外のサッカーメンツは、みんな餌食となる。  被害者はコウモリたちに齧られ、悲鳴を上げて必死にゼオへの謝罪を叫び始めた。  貧血は、低度の回復魔法では治らない。  フラフラとふらつくあれを食らうのは、例え軍魔だろうが大嫌いなのだ。  更に言えば、ヴァンパイアは催淫毒を入れるか入れないかも自在。  なので誤魔化しなしで飛び切り痛く噛み付くことができたりする。 「あぁッ! キーパー、サイドバック、フォワード、サッカーメンツの魔族共がーッ!」  次々にやられてへたり込む軍魔たちを見て、一人無事だった勇者は大げさに頭を抱え、なんてこった! といった表情で叫ぶ。  それを見ていたブレインのコウモリ──ゼオ本体は冷ややかな視線を向けつつ、散らばった分体を勇者のそばで集合させた。  バサバサッ、と翼がはためき、元通りのゼオを形作る。 「ウ、ルサ、イですよ。勇者なのに魔族と仲良くサッカーしないでください。全員俺からすると邪魔なんで。うっとうしい」 「なに言いやがる冷血コウモリィ。チームプレイで連携を磨けば実戦で役立つだろッ?」 「ちゃんとプランたててやれば、まだ許しますけどね。待機命令を無視してるのは、フザケてますよね」  ヤカラそのものな目付きでゼオを睨んで見下ろす勇者にも、一切ひるまない。  訓練にしようとすればできるが、無計画なゲームはただの遊びだ。 「あんたたちはニャーニャー喚きますが、戦闘時はいつも俺の分体を各自持っていってるでしょう。なにかあればわかりますし、俺が指示も出しますよね。故に不必要。子猫でももっとマシな鳴き方をすると思うがな」  特に悪意は込めていない。  思ったことをそのまま言っただけ。  けれど無表情で冷淡な語気を持つゼオが言うと、冷血だ鬼畜外道だと言われるわけだ。 「さて。わかったら黙って石像のように立ち尽くしていろ愚か者共が、と命令し直しますが、いいですか?」 「よかねーよいっちミリもよかねーよッ! 淡々と怒りやがってェッ! そもそもよ? 悪いのはグラウンドに勝手に入ってきたあの部外者共だぜッ? なんか捜し物があるとかで、隊列組んでふよふよしやがったんだッ! これは副官としてなんとかすべきじゃねッ?」  それでも納得がいかない勇者は、唇を尖らせてブーイングをする。 「あぁ、全員めんどくさいな……」 「ぐぁぁぁッ! お前さぁぁ部下の言うこともたまには聞けよおおぉぉッ!」  つい本音が口をつくと子供のように地団駄踏む勇者に、やっぱりめんどくさいとため息を吐いた。  事情は見ていたからわかるが、聞いてもやはり面倒この上ない。  なぜか今日来たばかりの魔王城で護衛もせずに、なにやら捜し物をしているらしい護衛部隊も、異常だ。処理せねば。  更にお仕置きを受けてへたり込む部下の躾も、しなければならない。  それらをまとめて、結果としてめんどくさいが出てきたわけである。

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