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第495話

 よくわからない俺にきちんと説明してくれる程、ゼオは親切ではなかった。  膝に肘をついているゼオはそのまま軽く首をかしげて、俺を下から見上げる状態だ。 「シャル。俺って半端者ですかね。強くもないですし特別でもない。それでも悲壮感を漂わせて、殊勝にか弱ぶったりしない。境遇を哀れんだこともなければ、なんならどうでもいいですよ。かわいげない……シャルはあの時なんて返したか、覚えていますか」  突然、そう尋ねられた。  あの時……ええと、あの日の雑談の中でそんな話をしたのだったな。  俺は思い出を振り返り、あの頃の気持ちを思い返す。  きっかけはなんだったか、忘れた。  強さが全ての魔族は人間を弱いと認識していて、人間は魔族を世界の悪いことの権化だと思っている。  自分はそれらが混じったハーフだが、俺はなんとも思わないのかと、聞かれたんだ。 「そうだな。んと……、〝ゼオの欲しい言葉がわからないが、俺は今日であったお前がヴァンパイアでも、人間でも、ハーフでも、どれでも今一緒に歩いていた〟……だったか。細かいところは違うかも知れない」 「ふ、正解」  ありのまま答えた。  すると本当に珍しく、ゼオは口元を緩ませて上に緩いカーブを描く。  初めて見たと思う。  微笑みを浮かべるゼオは。  俺はつい、驚きに目を見開いてしまった。  しかしながら、その笑みはどこか挑発的でわざとらしい。  なるほど、きっとわざと俺に見せつける為に笑ったのだ。  そういうところが強かなんだ。 「返事、くださいよ。俺はそういうズレた返事をするあんたが好きだったんですから」 「そうだな。ごめんなさいだ」 「でしょうね。ちなみに、あの日でも? 未来でも?」 「俺が俺じゃなくならない限り、いつまでも……もうそう言う生き物になったんだ。変えられない。無理に変えられたら、俺じゃなくなる。お断りに罪悪感があっても、絶対にごめんなさいしか言えない」 「くくく。そう。あんたじゃないならいらないな。霞も残らないくらいあの日ちゃんと諦めましたけど、返事を貰うと、それこそ影も残さずすっきりしますよ」  長い時を経て気づいたのに、随分あっさりした告白で、あっさりした返事だ。  ゼオはさっぱりとしたクールな性格だから、まるで気にしていないように、むしろ清々しそうな様子に見える。  だが、本当はどう思っているのかはわからなかった。  ずっと黙り込んで俺の膝にすがっているキャットを思うと、ゼオも膝にすがりたい気持ちになっているのではないか、と不安になる。 「……お断りされるのは、きついだろう?」 「ん? 全然?」  けれどゼオは本気で、瞬きひとつも迷わずに返答した。  振った俺のほうが心配するレベルで、迷いがない。強すぎる。 「時間ってのは大事だ。今は恋愛感情皆無って言ったでしょう。ま……一日の恋でもね、あれだけきっちり折られたら諦められます。魔王様は、気付いてらっしゃいましたよ。だから出てきたんだと思います。本当、俺は魔王様に殴られたことはなかったんですよね。基本部下に手を出さない人なので」 「俺が臨時教師になった時、ライゼンさんと戦っているのを見かけたぞ?」 「シャル関連ですしね、それ。元々は殴る程怒ったりしない、やりやすい上司でした。今は今で面白いからいいですがね。必死すぎて。俺は感情の起伏があまりないので、あれだけシャルを愛してやる自信ないですし」 「ど……どんな反応をすればいいのかわからない」 「俺はフラれたぐらいでブレないってことです。諦めたと言ったら諦めています。諦められないなら、どんな手を使っても手に入れます。恋愛で嘘は吐きません。面倒ですから」 「うぐっ」  最後のセリフの後──ゼオの手が、ずっと動かなかったキャットの頭を鷲掴んだ。  反応も言葉もなく、虚無の状態に入っていたキャット。  予想外に後頭部を掴まれ、キャットは真っ赤な目で情けなく声を上げて、ゼオを見つめ返した。  本当は逸らしたいだろうに、視線を逸らさないのは腹を括っていた彼らしい。

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