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後話 さよならさんかく精霊王(sideアマダ)
「──んん……結構、面白いことになってるなぁ」
窓の外で浮遊する水溜り──精霊王アマダは、窓の向こうで仲睦まじいやり取りをするあべこべの家族を眺めて、少し寂しそうに呟く。
自分に魔力がなくてよかったと言うべきか。
空に浮かぶ精霊王の存在に気付いていれば、あの警戒心が強く独占欲の激しい魔王は、愛しい番と娘を隠しただろう。
おかげで帰る前に散歩でもしようと漂っていて、あんな光景が目に入ってしまったのだが。
水の塊でしかないアマダの噛み締めた口元がどのあたりなのかは、誰も気がつかない。
「昨日キャットに告白されていた、アレがシャル。まさか男だったとはな……。そう言えば魔界は同性婚が可能だった。性別も気にしない、それは知ってる。……お前がそうだったとは、思わなかったけどさ」
視線で追うのは、魔王に荷物のように抱えられているのに嬉しげに微笑む男。
自分の決めた通りに動き、誰も特別扱いしないのが、アマダの知る魔王だ。
月夜が似合う妖艶な目付きの彼だが、ベッドで誰かと熱を持つような想像すらできない空気があった。
そしてそれは事実だった筈。
恋愛感情なんてものは焼ききれているか、もとよりそんな物存在していないように思える。
そんな魔王が饒舌に魅力を語り、よそ者には見せたくないと隠し、自分以外に好かれるなんてと駆けていく存在が……まさか、男だなんて。
アマダはじっと男を見つめた。
顔はよく見えないが、悪くはないと思う。
でも女性らしさがあるようには見えない。
むしろ魔王とは真逆で、禁欲的な様相だ。
空気感は、どこか自分と似ている気がする。
人の第一印象を系統で分ければ、同じ箱に放り込まれそうだ。
一人で窓の外を眺めている時から見ていたが、大声を出したりはあまりしないんだろう。
晴れた空の朝日を浴びて、穏やかに口元を緩めていた。
(男でも良くて、似ているなら……別に、俺でもいいじゃないか。なぁ……)
そんな気持ちは、今まで匂わせたことはない。
ただ奪われるなら、直接頼もうかと思う。
自分のほうがずっと前から愛していたのだと、わかってもらえるなら、そうしたい。
でなければなんの為に自分が精霊王になったのか、その意味がなくなってしまうじゃないか。
「でもたぶん……アゼリディアスのほうが嫌がりそうだなぁ、あの様子だから」
アマダは物分かりよくやれやれと呆れてみせるが、やはり胸が痛み、悲しみの中で嫉妬もしてしまうのだ。
仕方がない。
すぐに諦めるには、格好よすぎた。
迂闊な魔王は、一番自分を諦めていた時のアマダを救ってしまった。残酷だな。
一つに縛った自分の黒い髪をなでる。
これを切ればもっとよく似るけれど、それはやめておこう。
──それにもう一つ。
こちらは物分かりよくはなってやれない。
精霊界の儀式に関わる話だから。
扉の中へ消えていった植物を纏った白い翼を背に持つ、幼い子ども。
「見つけたぞ。生まれていたなら、帰ってこないとダメだって知っているのに……お前はそこで何をしているんだろうな──……ジズ」
探し物の意外な隠し場所。
それの正体を霊力の感じられない魔族が知っていたのかは、どうでもいい。
しかし代々秘匿しながら行ってきた極秘の儀式には、不可欠な存在のそれ。
ちっとも面白くなんてないことだから、アマダはわざわざ面白いことなんて、言ってみせたのだ。
後話 了
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