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第518話(sideアマダ)
けれど親愛はわかるのだと、言った。
彼の言うそれは、一人きりで欲していては決して手に入らないもので、とても暖かで柔らかな尊いものらしい。
アマダがそれを得ていないのなら、それは嘆き悲しむものだろうと。
それを得る方法はすこぶる簡単である。
だが、あまりに困難であった。
わからないことずくしの王は、唯一わかることだと言い、じっとアマダの瞳を見つめる。
夜色の瞳は彼のさじ加減でいかようにも恐怖をもたらすことができる、恐ろしい魔眼だ。
アマダはつい目を逸らしてしまう。
だがややあって、恐る恐ると視線を上げた。
再度目を合わせたアマダに、彼は切れ長の瞳をほんの僅かに緩ませて口角をニヤリと歪ませる。
そんな表情も似合ってしまうほどの美貌を、再び見ずにはいられなかったのだ。
彼の言葉は、声が魔力を持っているように染み渡った。
ひとりぼっちで泣いているのを見つけてもらえて、刷り込みでも生まれたのかもしれない。
『愛されたいなら、お前が愛せ。ありのままのお前を否定しない者を、お前から愛せばいい。本物の愛が欲しいなら、自分がそうしろ。自分が上手に愛せないなら、お前が愛する人にお前を愛してもらえばいいだろ』
『そしてお前は、そいつを枯れ果てるまで愛し抜け』
素っ気ないようにも思える言葉に宿る力に脳を揺さぶられ、アマダは目を丸くして彼を見つめるしかなかった。
経験だろうか。実感だろうか。
どこか憐憫を滲ませる言い方は、かつて彼自身がそうだったのかもしれない。
逸らせない視線の先の彼はなにかを思い出しているのか、穏やかに笑ったような気がした。
その横顔が、ドキリとするほど美しかった。
愛してもらうためには愛すること。
それは思いもつかなかった話だ。
自分では自分を愛せないから、とびきり愛しい人を見つけて愛し合えばいい、なんて。
アマダは濡れた頬を擦り、深く頷こうとする。
けれどすぐに一抹の不安を感じて、縋るように彼を見つめて眉を下げた。
『でも……自分をさらけだした俺が、それでも誰のことも愛せなかったら、やっぱり愛してもらえないだろ……?』
『ハッ。愚問だな、アマダ』
『っ……?』
『曝け出した自分を丸ごと受け入れられると、それを愛さずにはいられないんだよ』
例え──魔王でもな。
彼はそっけなくそう言って、自分から目を逸らした。
だがその残像はすぐには忘れられないくらい、アマダの脳に鮮麗な印象を与える。
なるほど、なるほど。
そうか。……確かに。
愛さずにはいられないことを、たった今、自分は身を持って知ったのか。
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