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第541話(sideリューオ)
──部屋外。
「ぐす……なんで……? 俺はお前とアゼリディアスを思って、諦める覚悟をしたのに……それでも、アゼリディアスが不幸になるならと思って、正しいことを言いにきたのに……」
「ハァ……」
部屋の中から聞こえる泣き声に、呆れ返ってため息を吐いた。
あんまりふざけてるから、ボケかと思ったぜ。ツッコミは聖剣の剣撃でイイか?
割と本気でそう思いながら、聖剣の柄を指先で無意味になぞる。
精霊王のようなやつは、お察しの通り、俺はマジで大嫌いだかンな。
世の中には、人を思って自分の望みをハッキリ言えないこともある。
臆病だから、自分の意思をハッキリと言えない奴もいる。
けれどアイツは違う。
そっと目を閉じて、対面してから今までの精霊王を思い、俺とは合わないと脳内で断言した。
なにも自分で決断しない。
納得していないくせに、フワフワと漂うシャボン玉のように、誰かが行先を決めるのを待っているだけだ。
シャルは泣いた精霊王に慰めを否定された時、本心から〝アマダが好きだ〟と言ったんだろう。
シャルはあぁ見えて、ポジティブな自己否定人間なのだ。
自分のことをそれほど価値があると思っていないために、自分以外の人が、キラキラと輝く宝石に見えている。
アイツは、綺麗な宝石に「美しいな」と言うことを厭わない。
目映い輝きを素敵だと尊敬して宝石を大切にするし、ニコニコと真心込めて磨く。
目映いからと目を背けることも、煤けた自分だと卑屈にもならない。
そんなシャルだから、あんなにもシャルを嫌って言外に〝邪魔だ〟と言い、立場もなにもない異世界人のシャルにマウントを取る精霊王を、好きだと言えるだけ。
シャルは気色悪いくらい、人の悲しみに共感する。してしまう。
馬鹿馬鹿しいザマだが、漬け込まれる。
自分だって悲しい、痛い、それらを全て除外して考える。
けれど俺は〝孤独で悲しい過去があるから人を傷つけても許されるべき哀れな悪人〟なんて、大嫌いだ。
共感なんてしねェ。
贔屓するぜ? 当たり前だろ。
だって、俺のダチがコケにされたンだ。呑気に話なんか聞いてやれるかよ。
察してチャンも構ってチャンも、心底クソファックだわ。
こんなクソ野郎に捕まった魔王のために俺が愛しのユリス断ちを強いられてるかと思うと、うっかり斬りかかりそうだぜ。
「……チッ……」
苛立ちから舌打ちをすると、少し離れたところで控える男から、殺気が向けられる。
おーこわこわ。
アイツにとっちゃあ、愛しのセーレーオーサマ、なんだろうよ。反吐が出るわ。
過剰に反応して殺気まで飛ばすところは、あのポンコツ魔王に似ているかもしれない。
けれど魔王は、シャルを愛することを強要したりしねぇ。
むしろ断固拒否だ。嫌っていても、害をなさなければ無視するだろう。
他の誰に強いるわけじゃなく、自分が最大級に愛する。全人類のぶんを、一人で愛することも厭わない魔王。
シャルだって魔王が自分を贔屓しろという態度を取ったら、是とはしない。
それはいけないと言い、謝ろうと促したり、自分が謝ったり、魔王がその態度だけで勘違いされないように動く。
閉鎖的なやつらだ、精霊族は。
俺たちの思考も存在も取るに足らない、興味無いと見下しているのに、自覚がねぇんだよ。
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