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第542話(sideリューオ)

 精霊王はひと月も前からずっと困窮させられ、放置されている俺たちに、今更自分の都合で会いにきた。  椅子が二脚しかなく、シャルが暇つぶしに修理したとはいえあちこち壊れたこのボロ屋敷を見ても、ずっとあの人懐こい笑顔のままだった。  だから俺はそうそうと敵認定をしていたのに、シャルがそれを止めるから我慢してやったのだ。  まーそりゃ、魔王の外交にヒビが入るからだろうけどな。  ケッ。俺だって一応、あのマウンテンゴリラスペックな変態魔王のことも気に入ってやってンだ。  ユリスの元片想い相手でイケすかねェから、いつかぶちのめすけどよ。  ガチでじゃれあって惚気合いながら打ち合うのは、楽しいぜ。  ただ、シャルのことを語りだしたらウゼェ。話半分。指のささくれを弄りながら聞き流すべきだ。  そんな魔王とシャルのために、仕方なく俺も精霊王への苛立ちを我慢することにした。  でも精霊王は、白いやつが俺らに思いっきり失礼な態度を取っていても苦笑いして、俺らに順応を求める。  おかしな話だろッ?  俺らは魔界サイドの来賓扱いのはずで、きちんと持て成す意志を示したのに。  その後だって、ずっとずっとだ。  シャルと二人きりになりたいと言って、俺が拒否すれば左王腕は力ずく。  それでも引き下がらないと言うと、精霊王は黙って笑って居座る。  おかげで世話焼きなアホが、危険を承知でオーケーを出しちまった。  魔法陣をわざとらしく貼り付けたから、いざとなったらそっから逃げるって伝えてきたんだけどよ。  話が始まっても確信に触れず、嫌味とマウントばっかりだ。  聞いてる俺はムカムカして、頭の血管が何本かブチ切れ寸前だったかンな。  魔王との思い出話を装って、いかに親密かを語る。  無自覚にでも、そんなのクソすぎるだろ?  自分はこんなに魔王と仲がいいです。  自分はこんなに魔王のために尽くして、想ってきました。  だけど貴方に奪われた。  可哀想ですよね。あぁ、涙が出る。貴方のせい。  俺のダチを刺していく言刃が透けて見えて、ふざけるなと割り込んでやりたかった。  精霊王は一度もなにも譲ってねェ。  ずっとシャルが鈍感のくせに汲み取って、斟酌している。 『……羨ましい、シャル。お前のような、誰にでも好かれる存在になりたかったよ』  ふざけんなよ、クソが。  百で好かれるヤツなんかいるか。  思いがけず手に入れた勇者ではない異世界人として便利に使われていたアイツは、あまり好かれなかった。  だから孤独の末にたどり着いた魔界で、好いてくれるヤツを本当に大事にしてンだよ。  好かれる努力も好かれ続ける努力もして、得たものは大事に大事に、守ってきたんだ。  俺がシャルを守る護衛でシャルと仲がいいのを見た精霊王が、傷ついたような顔をして、白い男が痛ましくしていた理由は、ソレ。  俺とシャルがこうして敵地にまで文句を言いながら付き添う関係になるプロセスを、わかっていないくせに。  ──弱さと明るさが、羨ましい。  ──アゼリディアスを解放してくれないか?  ほら見ろ、馬鹿げてるぜ。  俺はアイツが嫌いで憎んでたんだよ。  でもアイツは俺の間違いを許して、許された俺を魔王が誘って、ここにいる。  本当なら殺されたって仕方がないのに、人間国に帰れば無事ではすまないかもしれない俺を、アイツらはあっさりと仲間に入れてくれた。  なぁ。シャルたちを羨むよりも考えろ。  自分たちを追い詰めたやつに、優しくできるのか? テメェらは。

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