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第543話(sideリューオ)
シャルは友人だと言って、裏表なく接してくれた。話を聞いてくれた。
共に馬鹿なこともしてくれた。粗野なところがダメだと言うくせに、離れなかった。
魔王は居場所だってくれた。仕事もくれた。シャルのためだと理由をつけて、なんだかんだと付き合ってくれた。
弱い人間がと言うくせに、いつも真っ向から相手にしてくれた。対等な男だと思ってくれた。
ユリスが好きになったと恋に走る俺を、アイツらは応援してくれた。
すぐに些細なことで喧嘩する俺たちを、アイツらはいつも叱咤激励してくれた。
ユリスも俺も、アイツらにはしてもらってばっかりだ。
ユリスも俺も、アイツらの恋路を一度は邪魔した男なのに。
かんたんで、恵まれてるなんて、テメェらに言われてたまるかよ。
傷つけたことを許されて、共にいることを許されて、そうやって見限られず大事にされたから、ここにいるんだ。
シャルの弱さと明るさを〝羨ましい〟なんて二度と言うんじゃねェ。
シャルが自分の弱さに何度泣いて、ボロボロになって、惨めな思いをして、不甲斐なさに消えたくなってきたか、知らねェくせに。
魔王をシャルから離すことを〝解放〟なんて二度と言うんじゃねェ。
魔王がどれだけ必死にもがいて、アイツだけなんだ、どうしても諦められない、共にいないことが不幸なんだと、ようやく掴んだ存在だって、知らねェくせに。
精霊王が今更正義ヅラして突きつけた大義名分なんかな、アイツらはもうとっくに傷だらけで乗り越えてきたんだ。
アイツらが〝生涯お互いだけを決して離さず愛し抜く〟と決めたのは、恋だの愛だので頭がバカになってる勢いじゃねぇ。
深く愛するほど、種族の違いで引き裂かれる時間を。世界の違いで残せない名を。
全てわかった上で、痛いくらい理解した上で、それでもと出した結論なんだよ。
「アマダ……俺より先に俺より深くアゼルを愛していた人がいて、その人たちがこうして泣いて傷ついてしまっていても。アゼルが名前も血も遺せない幻影のような俺を愛して、不幸になるとわかっていて、俺から身を引くことが大衆から見た〝愛情の正論〟だったとしても」
「っ……」
「ただのシャルとただのアゼルの愛情は、不幸のどん底で誰よりも幸福に笑っているんだ」
やっと精霊王の無自覚の意図に気がついたシャルが切った啖呵に、俺は当然だと目を吊り上げる。
ったく、鈍感野郎め。気づかなかったら後で散々説教してやったわ。
けれど、上々の啖呵。
「だとよ。まァ、それでもアイツらを引き離して、大好きなオウサマにオモチャを与えたいってンなら……相手になるぜ」
「…………薄汚いドラ猫が私の相手では、鞭が哀れですよ。身の程知らず共が……何れ殺すぞ」
「ハッ。勇者 を殺そうってんなら、魔王殺れるくらいはしなる鞭なんだろうなァ?」
精霊王の頼みを断ったシャルの言葉と共に殺気を溢れさせる白い男へ、ニヤリと笑って舌を出す。
ドラ猫勇者の恩返し。
恋人の頼みと、悪友の頼み。
ツンデレ二人がそっぽを向いて、お前に託すと選ばれたのが俺だ。
『いい? あの魔王様にシャルを任されるなんて、意味わかってるよねっ? 僕の親友、ちゃんと守ってよ? っ……お前はこの僕の、ゆ、勇者なんだからっ、リューオ!』
『いいか? 俺がいない間、お前はシャルの壁だ。細切れになっても守れよ? ……まぁ、お前はこの俺の喧嘩相手なんだから、精霊族程度に遅れを取るとは思わねぇけどな。お前が負けたら、間接的に俺が弱いみてぇだしな。別に信頼してるってわけじゃねぇ。そういうことだぜ』
よく聞け。きなくせぇ精霊族共。
コイツら掻き回すってんなら、俺を倒していけってんだ。
──シリアス展開なんざ、魔王城一空気を読まねェこのリューオ様の敵じゃねぇぜッ!
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