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第544話
◇
結局。
泣いて縋られたのにも関わらず断固拒否を決めたからか、俺の啖呵を聞いたアマダは「わからず屋」と涙目で帰ってしまった。
流れを説明すると、以下の通り。
『俺はシャルよりずっと長く想っていたのに、突然奪われて、よりにもよってアゼリディアスを傷つけるシャルを選ぶなんて……っ悲劇だろっ、俺にまで好きだとか言うのは、シャルは誰にでもそうする八方美人だぜっ』
『うぅん……そうかもしれない。人を嫌うより好きになるほうが、お互いに朗らかな気持ちだろう? 八方美人なのは……俺の周りの人が、素敵な人が多いから、仕方ないな』
『っそ、そんなのシャルにだけ優しいんだっ。弱いままでも守ってくれて、自分に優しくしてくれるから、好きなだけだろっ。そうして余裕ぶっているのも、愛されているからだ。アゼリディアスに愛されなくなったら、きっと自分を哀れんで自分ばかりになるさっ。余裕のあるお前の言うことは、全て偽善だ』
『だから初めから、俺は偽善者だと言っているんだが……』
『う、うぐぅっ……! お前のようなのは俺の周りに一人も居なかったぞ……きっ気持ち悪い! アゼリディアスや軍魔や護衛、誰も彼もお前が一番! お前は誰にでも愛される! そんなの、残酷で狡い……っ! 愛されてばかりで応えられないだろう? なのに悠々と守られて……!』
『アマダ。どうして俺をまるで乙女ゲームの主人公のように思うのかわからないけれど……俺はアゼルの一番好きな人で、他の人の一番ではないからな?』
『なんだっ心の中ではドヤ顔なんだろ! ……おとめげーむってなんだ?』
『一人の女性がたくさんの男と恋に落ちるゲームだ。個別ルートがあるから厳密には違うが、それはさておきだな。俺が恋したのはアゼルだけで、死にかけても諦められず、死んでも諦められずな俺だぞ? 二股はおろか、絶妙なタイミングで助けてくれる間男キャラとの間で揺らいだ記憶すらない。アゼル単推しだ』
『その愛はこ、怖すぎるぞシャル……? 愛が重いだとか、真面目に一途すぎるとか、言われそう……』
『うっ、過去の恋人にはそれで別れを切り出されたが……。ゴホン。とにかく、申し訳ないけれど別れることはできない。アゼルもできない。それがわかるくらいに、俺はアイツに愛されている自覚がある』
──と。
こういう流れにより、俺とアマダは、というかアマダオンリーだが俺の考えに納得できず、決別する運びとなったわけである。
真っ暗な部屋に差し込む、明るい月明かり。
その影になったベッドにゴロリと横になりながら、俺は布団を被ってため息を吐いた。
アゼルがなにをしているのかわからないが、精霊界において、アマダの機嫌を損ねるのは得策ではない。
しかしだからと言ってアゼルを譲ることはできず、結果はあぁなってしまった。
断る選択肢しかなかったが、アマダのことが嫌いじゃない俺としては、胸が痛い結果だ。
無自覚に、遠回しに、悪意なく人を傷つけてしまう。
それはつまり、人を傷つけるという意思を持っては、傷つけないということだ。
根っから悪人ではない。
片想いをして、俺にアゼルを奪われ、自分がと思うことは悪いことじゃないだろう。
誰しもエゴを持っている。
それが俺とは相容れないだけだ。
「……アゼル……」
ポツリと呟く。
なんとなく……無性にアゼルに会いたくなった。
また禁断症状かもしれない。
〝俺といないほうが客観的に幸せな時間を過ごせるアゼルを、俺から解放する〟
そんな話も、もうとっくに終わっている。
二人、共にいられることが唯一無二の最大幸福だと。
「それじゃあ、一緒にいないとダメだろうに……アゼル、俺だって少しは拗ねるんだぞ」
ソワソワと会いたくてたまらなくなる胸がザワついて、俺はそんな独り言を言う。
その声は思っていたより、拗ねていた。
なるほど、重症だ。
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