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第545話※微

 枕元に置いていたアゼルから届いた手紙を手に取り、ざらついた封筒の手触りを指先で弄ぶ。  トン、と鼻頭に手紙を当てて、香りを感じる。  油っぽい封蝋の匂い。間違いなく魔王の印。  それから、桃の香油の香り。  したためた後も、しばらくアゼルが持っていたのだろう。  アゼルの香りは桃の香りと、冷ややかな鉱物じみた匂いがする。  玉座の間の大理石の香りに近い。  それをスウ、と肺に吸い込んで、目を閉じた。  そうすると瞼の裏側にアイツの姿を思い描くことができるからだ。  より鮮明な記憶を蘇らせて、残り香に縋ると、まるで抱きしめられているような気分になれる。 「ン……」  けれどあまり深く浸りすぎると、弊害が呼び覚まされることも。  下腹部の奥がジクジクと膿んだような感覚を覚え、閉じていた瞼を開いた。  これ以上は、危ない。  アゼルが俺を抱きしめて眠る想像をすると、意識があるその先なんて、肌を重ねる官能である。まずい。  そう思ってすぐに脳内をクリーンにしようとしたが、今日はどうにも、想像上のアゼルが脳裏に焼き付いて出て行ってくれなかった。 「う、困る、アゼル、もう出て行ってくれないと困る」  あぁ、いけない。困った。  懸命に追い出そうとしたら、脳内アゼルが拗ね始めたじゃないか。  これは絶対に居座るぞ。  だってアゼルだからな。  パフパフと自分の周りで手を振って脳内アゼルを消そうとするが、脳内アゼルが「お前が俺のことを考えていない時間なんてなくってもいいだろうが!」と吠える。  くそう、鮮明に想像できる俺の想像力とアゼルへの知見の深さが強敵すぎるぞ。  ゾク……、と背筋が粟立つ。  ドク、ドク、と心臓が高鳴り始め、その気になっているモノが足の間でヒクリと反応した。  こうなったらもう、どうしようもない。  まあ一ヶ月も離れていたのは初めてだし、その間一度も抜いてないから、生理現象ということだ。  ……決して俺が残り香で興奮する変態ということではない。断じて違う。と、思う。  俺は深い溜息を吐いてゴソゴソと上掛けの中で丸くなると、下衣の中に手を滑り込ませ、ゆっくりと刺激する。 「ん、……ふ……」  薄く目を閉じて陰茎を擦り、湧き上がってしまった欲望を解消することだけに尽力した。  しばらく触れていなかったせいか、手の中のモノはすぐに芯を持ち、手のひらと擦れ合いクチュ、クチュ、とはしたない音が響く。  このまま事務的に処理しなければ。  溺れちゃだめだ。なるべく淡々と、余計なことを考えずに。  でないと俺は他国にやってきて、旦那さんの不在で疑念の渦巻く最中、その手紙に興奮して自慰に喘ぐとんでもない男になってしまう。  流石にそれは恥ずかしい。いたたまれない。  客観的に見ても、俺はあまりに不謹慎な淫乱である。消えたい。 「はっ……は、ぁ……ん、アゼル……」  けれどそうしようと思えば思うほど、俺の手の動きはアゼルの手の動きを反芻し、それによって事務的にと考えていた思考が乱されていった。  白いシーツに埋もれ熱い吐息を吐き出しながら、無意識に切ない声でアゼルの名を呼ぶ。  月明かりの影の中、封筒に鼻を擦りつけ、あれだけ追い出そうとしていた記憶の中のアゼルに縋ってしまう。  ──アイツの手は大胆に動く。  俺の弱点を見極め、反り返りの裏側を親指でなぞり、それと同時に胸元の突起に噛みつくのだ。

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